簡素さを追求する

石川秀樹氏の神楽坂「石かわ」の姉妹店としてオープンした「蓮」は、2018年6月に神楽坂から銀座に移転。料理長の三科惇氏は、料理人が憧れるこの土地でも今までと変わらず、徹底した集中力で料理を追求。ぬくもりのあるカウンター対応もそのまま。シンプルで凛(りん)とした料理が、多くのお客を喜ばせている。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

石川秀樹氏の神楽坂「石かわ」の姉妹店としてオープンした「蓮」は、2018年6月に神楽坂から銀座に移転。料理長の三科惇氏は、料理人が憧れるこの土地でも今までと変わらず、徹底した集中力で料理を追求。ぬくもりのあるカウンター対応もそのまま。シンプルで凛(りん)とした料理が、多くのお客を喜ばせている。

シンプルな料理を妥協なく

料理で心がけているのは、一品の中で食材をあまり組み合わせないことです。基本的にはシンプルに。今回紹介したお料理(次ページ)も、松葉がにを炭火で焼いたもの。カウンターで焼くので、香りもごちそうになります。焼きあがったらほぐしてお出しし、酸味のあるものをつけて召し上がっていただきます。

その他の料理も、例えば焼き物では、金目鯛は七味醤油で風味をつけ、炊いた海老芋を添えて。揚げ物では甘鯛としいたけをフライに。一品ずつはあまり押しが強くないのですが、全体を食べ終えて数日して「そういえば、おいしかったな」と感じていただけるような料理を目指しています。

注意しているのは、親方(石川秀樹氏)の教えですが、最後の最後まで妥協しないこと。仕上げにかける生姜の搾り汁の量はどれくらいが最適か1滴単位で考える、という具合です。

また、最近は仕込みにいっそう時間をかけるようにしています。海老芋を蒸すなら、以前は20~30分で火を入れていましたが、今はとろ火でじわじわと、2時間ほどかけています。そのほうが微妙に甘みが出るのです。蕪も、1時間ほどかけてゆっくり炊き上げます。どうすれば食材がより生きるか、日々試行錯誤です。

研ぎを通して、職人の姿を教えてくれた義門さん

包丁は、和食の料理人にとってもっとも大事な道具。特に思い入れの強い包丁4本を紹介します。一番左が、私の最初の師匠である勝又茂美さんから譲っていただいた一本。その隣が、親方(石川氏)から小泉(瑚佑慈)さんへ、その次に私へと渡ったもの。さらに隣が、私が今実際に一番よく使っているもの。以上3本は、柳刃(刺し身包丁)です。そして一番右が、珍しい両刃の出刃包丁。

これらの包丁はいずれも、埼玉県春日部市の包丁職人、義門さんの作によるものです。義門さんはもう10年ほど前に亡くなられたのですが、私は6~7年ほどお世話になったでしょうか。

若い料理人がまず買う包丁は、基本となる薄刃、出刃、柳刃です。義門さんの場合、その支払いは毎月1万円ずつというシステム。そして支払いが終わる頃に、次に必要な包丁(ふぐ引き包丁、さらにその次は鱧切り包丁という具合に)が出来上がっていて、それを買う。新しい包丁のお代を、引き続き毎月1万円ずつ払っていく。この繰り返しです。

勝手に次の包丁が作られているから、「もしかして自分は都合のいいお客?!」なんて当時は思ったこともあるのですが(笑)、今思えばとんでもない。義門さんは、若者の修業に並走してくれていたんです。こちらは、次の包丁を目指して熱心に修業をする。おかげで、早いスパンで仕事を覚えることができました。

あと自分は、月に1度くらい春日部まで足を運び、ほぼマンツーマンで義門さんに“研ぎ”を教えてもらっていました。その日は朝10時ごろから義門さんの前で包丁を研ぎ始め、お昼には奥様がいつも準備してくださるおいしいご飯を食べてから、また夕方ごろまでずっと研ぐ。まるで道場です。

私が研いでいる間、義門さんは横でプラモデルなんか作っている(笑)。でも、研ぎの“音”はしっかり聞いていました。音で、動きがブレてないか、刃が正しい角度であたっているか、私がちゃんと集中しているか、判断する。それで時折、厳しい指導が飛んでくるんです。

1日がかりで真剣に研ぐので、終わる頃にはへとへと。合間に交わした会話も含め、すべてがかけがえのない勉強でした。

両刃の出刃包丁は、義門さんが亡くなってから遺作として譲っていただいたもの。刃がものすごく分厚くて、作るのが非常に難しいのだそうです。

大きな鯛やクエの頭を割る時に使うものなのでしょうが、義門さんの思い出があるので、なかなか使えませんね……。それほど、私にとって義門さんは大きな存在なのです。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。