実践する医食同源

かつて、清朝の皇帝の食を預かる職にあった厲家。その献立を再現した料理を提供しているのが厲家菜(レイカサイ)だ。皇帝の健康に寄与することが最優先され、かつ美味も要求された料理。4代目の厲愛茵(レイアイイン)氏が、歴史ある品々を今に引き継ぐ。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

かつて、清朝の皇帝の食を預かる職にあった厲家。その献立を再現した料理を提供しているのが厲家菜(レイカサイ)だ。皇帝の健康に寄与することが最優先され、かつ美味も要求された料理。4代目の厲愛茵(レイアイイン)氏が、歴史ある品々を今に引き継ぐ。

西太后の長寿を支えた料理

今回紹介したのは、「京味老蝦」という料理(次ページ)です。日本語で言うと「宮廷の海老」。

ここではオマールを使い、紹興酒風味で炒めていますが、昔はオマールはありませんので、大きな海老を使っていました。大きい海老は中国では「龍蝦」と呼ばれていますが、龍は皇帝の象徴。当店の料理は清朝の宮廷、特に皇帝の食卓を継ぐので、大きな海老を使った料理は欠かせないメニューとなっています。

宮廷は北京にありますから、魚や海老といった海鮮は、山東から運ばれてきました。そのほか、献上品として中国の南部から大きな海老が運ばれてきたこともあったようですが、鮮度はよくはなかったでしょうね(笑)。

西太后は、毎食100皿もの料理を並べさせたといいますが、それらは「吃一・看二・観三(チイイ・カンアル・グワンサン)」、すなわち手前に置かれた「実際に食べる料理」、その奥の「見てみて、食べるかもしれない料理」、届かない遠くに置かれた「眺めるだけの料理」に分けていました。

先ほど話した海老などは、献上品ですから捨てるわけにいかず、かといって食べてもらうわけにもいかない。ならば、眺めるだけの「観三」のグループで出そう、というようなこともあったみたいです。

ただ、もちろん当店が継いでいるのは、実際に食べられた、体にもよく、味も優れた料理。厳選した食材を使い、味は甘、酸、辛、苦、塩の五味の調和を意識しながら、食材の持ち味や栄養を最大限に生かすよう考案され、長い歴史の中で残ってきた品々です。

そんな当店の特徴をよく表しているのが、彩り豊かな前菜の数々です。豚バラ肉の燻製、そら豆と帆立のすり身を合わせて蒸した翡翠豆腐(ひすいどうふ)、人参の炒めもの、鹿肉・たけのこ・干し椎茸の山椒風味などなど……。食材の種類と栄養素、酸性とアルカリ性のバランス、五味を組み合わせています。

食材は、自然の恵みです。特性をよく知り、体にとって何が必要かを考慮しつつ、食材それぞれの長所を生かし、短所を補うような配慮を重ねて料理を作ります。

こうして作られたバランスのよい食事を終えた後は、体がすがすがしく感じるもの。そんな健康な美味を、厲家菜は常に大切にしています。

大臣だった曽祖父、教授だった父

厲家菜のルーツは皇帝の食卓にありますが、より具体的に言うと、その食を預かる立場にいた私の曽祖父にあります。

西太后を始めとする皇帝の食事は、毎日の体調に応じて、宮廷の医師と料理責任者の協議で決められていました。その料理責任者が曽祖父だったのです。ただ、料理責任者といっても料理人ではなく官僚で、料理を管轄していた内務府の総理大臣という立場。宮廷の中枢にある、要職だったようです。

後に清王朝が崩じてからは、曽祖父は宮中の献立書を保持し、宮廷料理人を自宅に連れ帰り、かつての皇族や遺臣に料理を振る舞ったそうです。それが「厲家菜」、すなわち「厲家の料理」として知られるようになりました。

そんな「厲家の料理」を客人に振る舞いつつも、厲家の人間は、本職は官僚や学者となるのが習わしでした。

私の父も、本職は数学の大学教授です。その一方で、厲家の厨房を遊び場にし、専属料理人たちに料理を教わるほど、幼い頃から料理が好きだったようです。
それで、長年本職の傍らで厲家の料理を追求し、ついには自宅の一室にてレストランとしての「厲家菜」をオープンしました。それが1985年のことです。

私も医学の道に一度は進みましたが、料理が好きで、厲家菜で料理人になる道を選びました。

厲家菜

なお宮廷の中枢にいた先祖にちなみ、当店では皇帝を意味するさまざまなアイテムを店内の随所に取り入れています。エントランスにある黄色い衣装は、皇帝の色である黄色で、皇帝の象徴である龍が刺繍してあります。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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