また、“まんべんなく精神”は、器のコレクションにも発揮されている。
「器が大好きなんです。どちらかというと陶器より磁器が多いでしょうか。
今回のお造りのお皿は、古伊万里を今に再現したような伊万里焼です。雨の中、傘をさして、空がきれいに晴れてゆく様子を見上げている、そんな情景を描いたものです。今日のような雨の中を来てくださったお客様への感謝の気持ちも込めて使っています」
「もちろん陶器も集めていますよ。師匠から『磁器のようにつるっとしたものばかりそろえても面白くない。備前・萩・唐津などをちりばめてバランスを取りなさい』と教えられました」
「まな板にもこだわっています。お造りはこれ、焼き物はこれ、お肉はこれ、と食材や調理法によって使い分けます。例えば焼き物に使うまな板は、太古より土に埋もれていたと伝わる神代欅(じんだいけやき)のもの。由来のストーリーとともに、カウンター内の作業を楽しんでいただければと思っています。とくに外国のお客様に、日本料理を分かりやすく伝えたい、そんな思いからまな板もバラエティー豊富にそろえています」
なるほど随所に生きる“まんべんなく精神”は、おもてなしの心でもあるのだと実感した。
高畑均 たかはた・ひとし
1966年生まれ。高校卒業後、吉兆の創業者である湯木貞一さんからのれんを分けられた大阪の名店「味吉兆」に入店。中谷文雄師匠の下で15年の研鑽を積み、2000年に「太庵」をオープン。11年にはミシュラン三つ星を獲得。
●太庵
大阪市中央区島之内1-21-2
山本松ビル1F
TEL 06-6120-0790
kad7500.gorp.jp
※『Nile’s NILE』2020年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています