「驚愕」の抽出

高田裕介さんが本町に「ラ・シーム」を開いたのは2010年3月、32歳の時。「この瞬間にしかない料理を創出したい」という思いから作られる料理には、食材に潜む「驚愕」が抽出されている。「え、これ何? 食べられるの?」、客を目と情報で驚かせ、最終的に「うまい」とうならせる。「ラ・シーム」では昼夜、そんな“高田マジック”が繰り広げられている。

Photo Masahiro Goda  Text Junko Chiba

高田裕介さんが本町に「ラ・シーム」を開いたのは2010年3月、32歳の時。「この瞬間にしかない料理を創出したい」という思いから作られる料理には、食材に潜む「驚愕」が抽出されている。「え、これ何? 食べられるの?」、客を目と情報で驚かせ、最終的に「うまい」とうならせる。「ラ・シーム」では昼夜、そんな“高田マジック”が繰り広げられている。

LA CIME、最高級の猪肉
脂たっぷり、最高級の猪肉300gをドン! ソースは行者ニンニクの醤油漬けが意外と合う。「脂こそ肉のクオリティーを決める」と高田さん。

肉の塊を所望したら、鳥取の山を駆け回っていたという野生の猪の肉が出てきた。何と分厚い脂身! 「とれたての最高級。きれいな脂でしょ」という高田裕介さんの言葉通り、実にうまい脂だった。ジビエでは他に、エゾジカをよく使う。「生け捕りしたのを一回飼い戻して、餌を与えてから屠畜(とちく)した、傷みのないきれいな肉を使っている」そうだ。

やんちゃな少年のような笑顔を浮かべる高田さんは、奄美大島出身。料理人を目指したのは、テレビで辻調理師専門学校の番組を見たことがきっかけだ。「共働き家庭だったので、よく自分でご飯を作ってました。時々そのテレビを見ながらね。それで自然と料理好きになった」という。

1998年に辻調を卒業後、大阪市内のフレンチ、イタリアン数軒で修業。2007年には「フレンチをやるなら、やっぱりフランスに行かなくちゃダメだ」と決意し、渡仏を果たした。「三つ星レストランで働けたことは、今につながる良い経験になった」けれども、「肉の加工とか、食材の使い方が奄美に似ている」と感じたそうだ。

2年半の“フランス修業”を経て独立。家族の暮らす大阪へ舞い戻り、「LA CIME(ラ・シーム)」をオープン。「頂上/山の頂」を意味する店名には、「最高の料理と空間で、食事を楽しむゲストをこの頂上の高みに持ち上げたい」という思いが込められている。

LA CIME。オコゼのあんかけ
広島産ハーブ・ネギの根っこ・切り干し大根のサラダ。奄美大島特産のきび酢が、まろやかな甘みを醸す。
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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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