肉の塊を所望したら、鳥取の山を駆け回っていたという野生の猪の肉が出てきた。何と分厚い脂身! 「とれたての最高級。きれいな脂でしょ」という高田裕介さんの言葉通り、実にうまい脂だった。ジビエでは他に、エゾジカをよく使う。「生け捕りしたのを一回飼い戻して、餌を与えてから屠畜(とちく)した、傷みのないきれいな肉を使っている」そうだ。
やんちゃな少年のような笑顔を浮かべる高田さんは、奄美大島出身。料理人を目指したのは、テレビで辻調理師専門学校の番組を見たことがきっかけだ。「共働き家庭だったので、よく自分でご飯を作ってました。時々そのテレビを見ながらね。それで自然と料理好きになった」という。
1998年に辻調を卒業後、大阪市内のフレンチ、イタリアン数軒で修業。2007年には「フレンチをやるなら、やっぱりフランスに行かなくちゃダメだ」と決意し、渡仏を果たした。「三つ星レストランで働けたことは、今につながる良い経験になった」けれども、「肉の加工とか、食材の使い方が奄美に似ている」と感じたそうだ。
2年半の“フランス修業”を経て独立。家族の暮らす大阪へ舞い戻り、「LA CIME(ラ・シーム)」をオープン。「頂上/山の頂」を意味する店名には、「最高の料理と空間で、食事を楽しむゲストをこの頂上の高みに持ち上げたい」という思いが込められている。