「自然への敬意、地球の循環、ミネラルの表現/山に雨が降り注ぎ、そのひとつひとつが雫になり、葉を伝い、地表に落ち、さまざまな地層を通り/力を抱え、森の中で川の一滴として誕生します」
これは「地球」という皿に添えられた米田肇さんの一文の冒頭である。詩的にして哲学的! 「地球との対話2020」と題された「HAJIME」のコースは、「緑」に始まり「磯」「近海」「地球」「海」「破壊と同化」「希望」「春浅し」「愛」と続く。米田さんが表現したいテーマを決め、そこからストーリーを紡ぎ、料理に反映させているのだという。
このスタイルを生み出したのは、8年前のこと。自分の作る料理に行き詰まりを感じ、フランスの友人の店を手伝ったことがきっかけだ。
「私がどんな料理を作っているのかを聞いた彼に、『それは良くない。肇の料理じゃあない。君が修業してきた店のシェフの料理だ』と言われたんです。ハッとしました。フランスに生まれ育った人とは、そもそも美意識が違うのだと気づいたんです。
そこから自分の美意識は何だと考え始め、自分が幼少期を過ごした大阪の枚方という田舎の風景に行き着きました。誰から何を教わったわけでもない幼い自分が四季折々の自然に感じた美しさこそ原点だと。その美意識を表現しようと思って、フランス料理をすっぱりやめたんです」
店は文字通り「ガラリと変わった」。ランチ営業はやめて、料理はディナー一本、3コースに絞った。それにより「これまで以上においしい食材を吟味し、手間と時間をかけて料理を作る」態勢を整えたのだ。もちろん頭の中はいつも料理のことでいっぱい。「日々暮らす中で感じたことからインスピレーションを得て、料理に結実する」ことも多いらしい。
それにしても一皿一皿が美しい。「料理はアートである」という言葉がしっくりはまる “出来栄え”だ。