ポジティブな変化
2020年の4月、「茶禅華」は丸1カ月の間、店を臨時休業した。その際、川田智也氏は、最初こそ「大変なことになった」と戸惑ったが、すぐに「時間ができたからこそ、やりたかったことを存分にやろう」と発想を転換。
「それまで毎日の仕事に追われ、集中して料理の深化に取り組むことができなかったのです。その歯がゆさを解消しようと思いました」
休業中は、10名いるキッチンスタッフが毎日厨房に集合。既存の料理のブラッシュアップと新作の開発に全力を注いだ。
「営業再開後は、『料理が格段によくなった、何かあったの?』と常連のお客様がおっしゃるくらい、料理を向上できました」
このほかにもう一つ、店にとってポジティブな変化が起きた。それは、営業時の料理のクオリティーとサービスの精度が増したことだ。というのは、時間短縮営業の中、すなわちそれまでより短い時間内で、それまでと同様のコース料理を提供するには、集中力のギアを一段上げる必要がある。
「時短が決まった時は焦りました。でも、火事場の馬鹿力というように、追い込まれると人間はそれまでにない力を発揮するものです」
時短営業が解除された時には、「大リーグ養成ギプスではないけれど(笑)、ギプスを外したら前より速い球が投げられる可能性がある。今営業していて“ゾーン”と呼ばれる空気が流れる時がありますが、これを時短が明けた時にも保てれば、と思っています」
なお、その際のポイントとなるのが「スタッフ全員でイメージトレーニングをし、営業中に起き得るあらゆる事柄に対する準備をすること」だと話す。
「私は高校時代まで長くバレーボールをやっていたのですが、試合をイメトレし、自分たちがとる可能性のある動きを緻密(ちみつ)に読んで備えること、みんなで声をかけ合うことはとても大事。その感覚を今、活用しています」