自然の規律との調和

清朝の皇帝の食を預かる職にあった厲家。西太后も愛したその献立を現代に伝える、厲家菜の厲愛茵氏。「令和」の意味を中国古代思想の文脈でとらえ、未来に向ける願いとともに料理で表現する。

Photo Haruko Amagata  Text Izumi Shibata

清朝の皇帝の食を預かる職にあった厲家。西太后も愛したその献立を現代に伝える、厲家菜の厲愛茵氏。「令和」の意味を中国古代思想の文脈でとらえ、未来に向ける願いとともに料理で表現する。

厲家菜
五行思想に基づき、中央に黄、北に黒、南に赤、東に青、西に白を表現。用いた食材は赤・黄ピーマン、山芋、ブロッコリー、キクラゲ。シンプルに炒め、上品な旨みのソースを流す。

「令和」という言葉は、2000年以上前に編纂された中国最古の医書『黄帝内経(こうていないけい)』を始めとする、中国の古典にたびたび登場している。「“令”は、人に “こうすべし”と伝えること。そして“和”とは、調和。つまり令和とは、 “人は調和すべし”という意味です」と、厲愛茵氏。では、人は何と調和すべきなのか?

「天体の変化、四季の変化などの自然の変化を司るルール、つまり自然の規律と、人は調和しなくてはなりません」

その自然の規律を理解する方法として中国で古来用いられているのが、五行思想である。

五行思想では、万物は「木・火・土・金・水(もく・か・ど・きん・すい)」という五つの要素で成り立ち、互いに影響を与え合いながら循環していると考える。この5要素は、方角(中心と東西南北)や色でも象徴される。今回、厲氏が「令和」というテーマで作ったのも、五行思想に基づく5色を打ち出した、鮮やかな一皿。さっと炒めた5色の食材まる—青のブロッコリー、赤と黄のピーマン、白の山芋、黒のキクラゲ―を、それぞれの色が象徴する方角に基づいた位置に盛り付ける。

「令和を迎え、人も料理も、自然との調和を改めて強く意識したい。そう思い、五行思想を表現しました」

厲家菜では普段から、品格を備えながらも、食材本来の持ち味をシンプルに引き出した料理を提供している。今回の料理も、ひと際潔い一品だ。「余分な手間や飾りを加えないのは、厲家の料理の特徴です。その点は、日本料理と共通していると言えるでしょう。でも、日本料理の美しさ、特に洗練された盛り付けにはいつも圧倒されます」と厲氏。

中国でも、「料理は色、香、味」と言われている。すなわち、まずは美しい色で食欲を目覚めさせ、それを香りでさらにかき立て、最後に味が来ることで料理を最上に楽しむことができる。

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ラグジュアリーとは何か?

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