常盤味噌、伝統の味を守り抜く

創業140年以上、昔ながらの味噌づくりをしている井上味噌醤油。鳴門の塩、国産の上質な原料を用いて、長年使い続けてきた道具で仕込む。味噌は樽にすみつく菌類の環境が重要という。

Photo Masahiro Goda

創業140年以上、昔ながらの味噌づくりをしている井上味噌醤油。鳴門の塩、国産の上質な原料を用いて、長年使い続けてきた道具で仕込む。味噌は樽にすみつく菌類の環境が重要という。

井上味噌醤油
今も量り売りを貫く井上味噌醤油。お客は容器を持って買いに来る。この黒っぽい「御膳ねさし」は、鳴門の塩を使った徳島の伝統味噌「御膳味噌」を5年以上長期熟成させた、米糀味噌ならではの深いコクが特徴的。長期熟成させているため、現在欠品中で2年後の樽出しを予定している。

かつての撫養港のほど近く、この地で140年以上、昔ながらの味噌づくりをしている、井上味噌醤油。創業以来、7代にわたって、伝統の味を守り続けている。手づくりした米糀(こめこうじ)、鳴門の塩、国産の上質な原料を用い、長年使い続けてきた道具で仕込む。いまだに量り売りをしている店には、近隣の常連客はもちろん、県外からもこの店の味噌を求めて訪れる。7代目の井上雅史さんは、“道具”が味噌づくりの要だと考えている。

「味噌を醸造する『木樽(きだる)』はもちろんのこと、大豆を炊く『鉄の和釜』、米糀をつくる作業に欠かせない『もろぶた』、味噌を詰める時の『木べら』と、代々伝わる道具を大切に使っています。長年使い続けている木樽や蔵には、味噌を発酵させる微生物、“酵母”がすみつき、ウチならではの個性的な味わいの味噌ができます。実は、醤油などは“蔵”に宿る菌類の影響を受けますが、味噌は“樽”にすみつく菌類の環境が重要になるんです。その証拠に、この100年以上使い込んでいる木樽と2015年に作ったばかりの樽で、同じ材料を同時期に仕込んで熟成させても、まったく違う味になります」

  • 井上味噌醤油、「もろぶた」
    糀菌を生育する部屋、榁(むろ)に積み重ねられた「もろぶた」は、手づくりの糀をつくるのに欠かせない道具である。
  • 100年ほど前から使い続けている木樽
    100年ほど前から使い続けている木樽。もちろん今も現役だ。味噌は、樽つきの酵母の影響を受けやすいという。
  • 井上味噌醤油の7代目、井上雅史さん
    「味噌づくりで使う道具の扱い方や修理法といった、知恵や道具との向き合い方も受け継いだと思っています」と話す7代目の井上雅史さん。
  • 創業140年以上の歴史を物語る井上味噌醤油の看板
    創業140年以上という歴史を物語る井上味噌醤油の看板。味噌づくりの原材料には100%国産の米、大豆、塩を用いる。

井上さんの味噌は4種。地元で愛される最も評判の「常盤味噌(ときわみそ)」、鳴門の塩で仕込んだ徳島の郷土味噌の「御膳味噌」、御膳味噌を木樽で5年以上熟成させた「御膳ねさし」、手づくりの米糀の天然の甘みと旨みが特徴の「白味噌」だ。味噌づくりに欠かせない道具との向き合い方までを継承する7代目の味噌は旨いばかりだ。

●井上味噌醤油
徳島県鳴門市撫養町岡崎二等道路西113
TEL 088-686-3251

※『Nile’s NILE』2019年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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