Un voyage vers  une nouvelle ère

ポール・ボキューズ氏のもとで5年、ジョエル・ロブション氏のもとで21年。平成を通して日本人の誰よりもフランス料理界の巨匠たちから薫陶を受けた渡辺雄一郎氏が目指すのは、氏にしかできない、日本人の心とフランス料理の本当の意味での融合だ。

Photo Masahiro Goda  Text Rie Nakajima

ポール・ボキューズ氏のもとで5年、ジョエル・ロブション氏のもとで21年。平成を通して日本人の誰よりもフランス料理界の巨匠たちから薫陶を受けた渡辺雄一郎氏が目指すのは、氏にしかできない、日本人の心とフランス料理の本当の意味での融合だ。

今回は、100年後も食べ続けられているであろう食材や料理をテーマに、江戸料理の伝統食材である鮪(まぐろ)を選択。
ニース風サラダは、春から夏のプロヴァンス料理の中でも渡辺氏が特に好きだというフランス料理の大定番だ。これをナベノ-イズム的な料理に再構築すべく、鮪は日本料理の包丁さばきに敬意を表して柳刃包丁でひき、サクごとに計量して、塩1.2%、トレハロース、黒胡椒、純米酒をまぶして真空にして漬け込んだ後、新時代に注目される調理器具、エマージュバーナーで瞬間的に炭火の香りをまとわせた。

そこにアーティーチョークやスュークリーヌ(南仏レタス)などの南仏野菜を合わせ、卵は奈良県の農家のブランド卵を凍結させ、卵黄のみを使用。アンチョビのフォンダンの滑らかなテクスチャー、凍結卵黄のねっとりした濃厚さ、愛媛県産無農薬レモンのさわやかな風味が織り成すハーモニーは、定番の材料を使いながらも新しさを感じる味わいだ。

鮪は昭和をともに過ごした高校時代の野球部の仲間が営む卸問屋から、次世代に残していきたい貴重な海洋資源の一つであるインド鮪の中トロを入荷したところにも、人と人、人と食材、人と時代のつながりの中で料理を手がけてきた渡辺氏のメッセージが込められている。

「最初は僕の新しい料理スタイルに、アレルギー反応を起こす方もいました。でも、例えば僕が毎日作っているそばがきとキャビアの料理でも、昔ながらのフランスのキャビアの食べ方が潜んでいるのです。突拍子もないことをやっているのではなく、あくまでフランス料理。その中で、次世代に残っていく、自分らしい料理を追求していきたいと思っています」

ナベノ-イズム 渡辺雄一郎氏

渡辺雄一郎 わたなべ・ゆういちろう
1967年千葉県生まれ。1994年に恵比寿「タイユバン・ロブション」の立ち上げから入店し、部門シェフ、副料理長、「カフェフランセ」のシェフを歴任して、2004年から「ジョエル・ロブション」のエグゼクティブシェフを11年間務める。2016年に浅草駒形で「ナベノ-イズム」を開業。『ミシュランガイド東京2019』で二つ星に昇格した。

●ナベノ-イズム
東京都台東区駒形2-1-17
TEL 03-5246-4056
www.nabeno-ism.tokyo

※『Nile’s NILE』2019年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。