さまざまな地産地消

その土地でとれた食材を使い、料理し、食べる。歴史の中で当たり前のように実践されてきた地産地消が、改めて注目されている。都市のレストランではどのようにこれを取り入れているのか? 三人のシェフにうかがった。

Photo Masahiro Goda. Hareko Amakata  Text Izumi Shibata

その土地でとれた食材を使い、料理し、食べる。歴史の中で当たり前のように実践されてきた地産地消が、改めて注目されている。都市のレストランではどのようにこれを取り入れているのか? 三人のシェフにうかがった。

(左上)南麻布の風景 (右上)有栖川記念公園 (左下)九十九里浜に面する千葉県山武市 (右下)北海道北斗市
(左上)南麻布の風景。この都会から、川田さんは「茶禅華」に使う東京産素材を探していくという。(右上)「茶禅華」の近所にある有栖川宮記念公園。この地一帯の水は「ほどよくキリッとしている」と川田さん。
(左下)九十九里浜に面する千葉県 山武市(さんむし)。ファンティンさんはこの地の「三つ豆ファーム」産ピゼッリを使用。
(右下)菊地さんも訪れる「おぐにビーフ」は北海道 北斗市に立地。函館から車で30分ほどの距離。

この5年ほどで、レストランの世界における地産地消への注目度は加速度的に高まっている。背景にあるのは、地方で開業するレストランの増加だ。「ローカルガストロノミー」という言葉をこのところ聞くようになったが、まさにローカル(地方)で、技術的にも哲学的にもガストロノミーと呼ぶにふさわしい料理を提供する店が増えている。

ここでいう「地方」とは、地方都市のことではない。野や山の中、海辺といった自然に囲まれた地、しかも観光地以外の場所も少なくない。こうした土地で地元産食材を調理し、土地の風土を表現する。まさに、地産地消の実践である。

ところで、そんな辺鄙(へんぴ)な場所に店を構えてお客は来るのだろうか? それが来るのである。しかもガストロノミーに強い関心を持つ人ほど昨今は地方に足を運ぶ。

では、どのような料理人が地方のガストロノミーレストランを担っているのか? 一つの例が、都会の店を閉じ、地方の自然豊かな場所に移るシェフたちだ。「フランスやイタリアの地方で働いた時、地域の生産者とレストランの強いつながりに感動した。いつかは自然豊かな場所で店を開きたいと思っていた」という話をよく聞く。

一方、最初から地方でレストランを開く、あるいはシェフに就く若手も増え、注目を集めている。「人里離れた場所にこそ自分の知らなかった素材があり、発見が多い。その土地で脈々と継承されてきた発酵や燻製(くんせい)の伝統的食文化もある。こうした素材や文化を知るのはとても刺激的で、クリエーティビティーにつながる」とシェフたちは幸せそうに語る。

そして彼ら彼女らの作る料理では、自己中心的な表現はない。あくまでも土地に寄り添ったうえで独創性を込める。そんな料理を感度の高いお客は求め、旅をする。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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