「故郷新潟の里山は雪が深く、ようやく5月に山で山菜が採れる。遅いけれど、まさに春のエネルギーそのものを感じる味と香り。そうした“今の一瞬”を表現するのが、季節感を大事にする日本の文化です」
ちなみに飯塚氏が平成を迎えたのは、ちょうど料理人として働き始めた年。料理人人生が平成時代と重なっている。「元号は意識しませんよ(笑)。ただ、30年間をふり返れば、いろいろあったとは思います」という。
また、「最近しみじみ思うのは、小さい頃の経験が料理人としての自分を支えている、ということ」と話す。
例えば、子供の頃はおいしいと思わなかった山菜を今、口にすれば故郷の春の風景が目に浮かび、懐かしさがこみ上げる。自分の中にある核となる体験は、料理に反映される。
「料理で自分のルーツを意識する。この流れはますます強くなるのではないでしょうか。料理人は、料理だけをやっていればよいという時代は終わりました。サービス、空間、スタッフの統率、個性の出し方……すべてのバランスが大事。料理は、複雑といえば複雑ですが、シンプルといえばシンプル。“料理が好き”、“ゲストに満足していただきたい”というピュアな心に行き着くのですから」
地に足をつけて、料理人として歩を進めてきた飯塚氏。そんな彼が実感している、時代を超えて生きる哲学だ。
飯塚隆太 いいづか・りゅうた
1968年新潟県生まれ。専門学校卒業後、「第一ホテル東京ベイ」「ホテル ザ マンハッタン」などで修練し、1994年に「タイユバン・ロブション」の開業スタッフとして働く。1997年に渡仏し、「トロワグロ」などの名店で約2年間研鑽を積む。帰国後、ロブショングループの店舗のシェフを務める。2011年に「リューズ」を六本木に独立開業。その年に『ミシュランガイド』で一つ星を、翌年には二つ星を獲得している。
●リューズ
東京都港区六本木4-2-35
アーバンスタイル六本木B1
TEL 03-5770-4236
restaurant-ryuzu.com
※『Nile’s NILE』2019年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています