「時代が流れても変わらない大切なものと、時代とともに変わるもの、両方がある。それがこの料理のテーマ」と、飯塚隆太氏。もっとも象徴的なのは、中央の勾玉形のアカザエビ。
「勾玉は、日本人が古来、お守りにしてきた存在。“日本らしさ”そして“変わらない強い思い”を表現しています」
料理では、フランス料理の伝統的な仕立てと、時代に合わせた軽やかさ、日本の春の表現が一体となっている。
中央のアカザエビは、ゆでたその身に、アカザエビ風味のマヨネーズのゼリーをかけた、フランス料理の伝統技術「ショーフロワ」の仕立てだ。下に敷いたのは、故郷の十日町市の名産「雪下にんじん」のムース。フォンやコンソメを入れず、雪下にんじんの甘みをストレートに生かした。周囲には昆布、干し貝柱、干しエビでとった出汁のジュレを配す。
「ニンジンのムースでフランス料理といえば、大先輩の五十嵐安雄シェフ(ル・マノアール・ダスティン)のスペシャリテ、“人参のムース コンソメジュレとウニ添え”です」と飯塚氏。
「フランスの味を日本に持ち帰った先輩がいて、私たちがいる。その世代の方々への敬意を込めたニンジンのムースです。かつ『我々世代が作るなら』と考え、日本の食材を用いたナチュラルな出汁を合わせました」
このジュレが、雪下にんじんや山菜の繊細な風味を、自然に引き立てる。
「旨すぎてはいけない。料理は時代とともにナチュラルになっています」
仕上げに、野生の山菜を盛り付ける。