中学生だった昭和の頃、母親が図書館で借りてきた『料理長』という本を読んで、志摩観光ホテルの「ラ・メール」の当時の高橋忠之総料理長を知り、実際に料理を食べてみたくて家族で訪れた。「鮑(あわび)のステーキの今までに味わったことのないおいしさ」に感動し、「いつかここで働こう」と心に決めたという。
のちに同店に入ってからの、料理人人生のすべてが平成にある。
「エル・ブリの存在が大きかったと思いますが、平成は古典フランス料理から脱フランスが進み、フランス以外からさまざまなスターシェフが生まれた時代。フランスでもピエール・ガニェールが注目されて、科学的なアプローチを始め、自由な、何でもありの時代になりましたが、そうした傾向に皆、ちょっと疲れてきているのかな、とは感じています。今後はシンプルにおいしい料理が生き残っていくだろうな」
食材を生かした、食材が主役の料理。それだけ、日頃から食材には目を向けているが、最近、静岡で衝撃を受けることがあったという。「筍(たけのこ)農家さんで、掘りたてをその場で出汁で煮た筍が、びっくりするほどおいしくて。根に近い部分が、かんだ時にジュースがほとばしるくらいジューシーでした。日本にはまだまだ僕の知らないおいしいものがあるんだな、と悔しく思いましたね。だから、もっともっと考えることはたくさんあるな、と。食材を守りながら、自分自身もさらに飛躍していける時代にしたいですね」
岸田周三 きしだ・しゅうぞう
1974年愛知県生まれ。フランスではパリ「アストランス」のパスカル・バルボ氏の右腕として働く。帰国翌年の2006年に「カンテサンス」のシェフに。2011年にオーナーシェフとなり、2013年に白金から御殿山に店を移転した。2007年に『ミシュランガイド』が日本に上陸して以来、連続して三つ星を獲得している。
●カンテサンス
東京都品川区北品川6-7-29
ガーデンシティ品川 御殿山1F
TEL 03-6277-0090
www.quintessence.jp
※『Nile’s NILE』2019年5月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています