神田裕行
日本料理 かんだ(元麻布 かんだ)
昭和の時代に料理人になって、初めて食べて感動したのがフォアグラです。その濃厚な味わいにこんな食べ物があるのかと、驚きましたね。最初に修業をしたのが大阪ミナミの「喜川 昇六」です。この店では、和風コロッケとか、すき焼きとか、松茸のフライとか、つまり食べ手の味覚に合わせて柔軟に調整するのが“浪速割烹”の真骨頂だという洗礼を受けました。
その後、大阪からパリに出た僕にとっての一番のごちそうは、ホテル日航の分厚い食パン。23歳の若者にとって、パンといえばふわふわの日本の食パンのことで、当時はフランスパンがどうしても好きになれなかったですね。ホテルのカフェでフォアグラのテリーヌと厚い食パンを別々にオーダーして、自分で食パンの上にフォアグラをのせて、そこにマンゴーやイチゴのジャムをつけて、アグッて食べていました。これが本当においしかった。まさに昭和の修業時代の思い出の味です。
平成の時代に入って、徳島の料亭「青柳」の料理に出合えたことも、まさにエポックメーキングでした。今、振り返ると、この頃までは和食のおいしさというものがわかっていなかったように思います。たとえばお吸い物の味もきちんと理解できたのは「青柳」で修業して、おいしさの定義を自分の中で持てるようになってからではないでしょうか。
●神田裕行
日本料理 かんだ(元麻布 かんだ)
神田裕行さんの想う「令和の味」
Steps to essence