上野駅から徒歩約2分。大きな「氷」の旗を掲げた店が、老舗氷屋の4代目夫婦が営むかき氷専門店、四代目大野屋氷室だ。
「初代は戦前から氷屋を営んでいましたが、1945(昭和20)年、大空襲で建物も道具も失ってしまったそうです。焼け残ったのは、1台のさびたリヤカーのみ。その状態からリスタートして77年間、氷の技術と知識を受け継いできました」
語ってくれたのは、おかみの大野夕希さん。数年前に4代目主人の勇さんと結婚した夕希さんは、昔から専門店を食べ歩きするほど、大のかき氷好きだったという。
「はじめは、主人が氷屋だということを知りませんでした。お付き合いしていくなかで知って、はじめてかき氷を作ってもらった時は、あまりのおいしさに衝撃を受けましたね」
“氷屋さんのかき氷”に惚れ込んで、かき氷屋を始めることを提案したのが、夕希さんだった。
大野屋氷室の氷は冷凍域(マイナス18℃以下)にならぬよう管理された工場で、48時間以上かけてゆっくりと凍らせたものだ。低すぎる温度で急速に凍らせると雑味が出てしまう。
そのようにして大切に作られた氷を勇さんが“目利き”し、純度が低くて使えない氷、飲食店のドリンク用に卸す氷、雑味のない最高級の氷というように、部位ごとに切り分ける。幼い頃から氷に親しんできた勇さんの長年の経験と、代々受け継いだ秘伝の技術のなせる業だ。四代目大野屋氷室では、最高級ランクの“生氷® ”のみを使用して、かき氷を作っている。
一番の人気メニュー「大野屋のいちごみるく」を作っていただいた。
なめらかな塊の氷を自動の削り器にかければ、天使の羽と見まごうほどのやわらかく透き通った氷が、ガラスの器に降り積もる。氷、シロップ、氷、シロップ、そして頂点に、いちごの果肉とコンデンスミルク。
いちごのシロップは、全国各地のいちごと様々な種類の砂糖の最適な組み合わせを模索し、実験を重ねて生まれたのだという。火にかけるタイミングや温度など、細かいバランスにこだわり抜いて完成したものだ。