日本の心に語り掛ける

かき氷専門店「ひみつ堂」店長の森西浩二さんは、元 歌舞伎役者。日本の伝統芸能の美意識や、お客様を驚かせる心、下町っぽさは、かき氷にも生かされている。夏と冬で氷の削り方も異なり、「体験として楽しいかき氷」を楽しめる。

Photo Satoru Seki

かき氷専門店「ひみつ堂」店長の森西浩二さんは、元 歌舞伎役者。日本の伝統芸能の美意識や、お客様を驚かせる心、下町っぽさは、かき氷にも生かされている。夏と冬で氷の削り方も異なり、「体験として楽しいかき氷」を楽しめる。

ひみつ堂 かき氷
「ひみつのいちごみるく」に使用されているのは、秋田県と静岡県産の露地苺の蜜と、コンデンスミルクと牛乳を合わせた特製みるく。

下町の情緒ただよう谷中ぎんざ商店街の一角に、レトロな赤色の扉がある。季節を問わず大行列を生んでいるこの店は、かき氷専門店「ひみつ堂」。2011年に創業し、かき氷ブームを先導してきた有名店だ。

店長の森西浩二さんは元歌舞伎役者。3代目市川猿之助の弟子として舞台に立っていた経歴を持つ。30歳の頃に歌舞伎をやめ、飲食店をやろうと思い立った。もともと食べ物を作るのが好きだったという。

「当時かき氷店はメジャーではありませんでしたが、まだ誰もあまりやっていないことに挑戦したかったんです。はじめは細々とでしたが、ある時、流山花火大会で出した屋台が、ありがたいことに話題になって。それでお店にしようと決めました」

店内は日本らしいレトロな内装だが、このような美的感性も歌舞伎の経験で培ったものなのだとか。

「歌舞伎は、衣装や隈取り、舞台美術などにも、鮮やかな日本の伝統色が多く使われています。歌舞伎の誇張された美の表現や、お客様を驚かせる心を取り込みつつ、下町っぽさも忘れないというコンセプトです」

色鮮やかなのは、店のインテリアだけではない。

通年メニューの「ひみつのいちごみるく」。森西さんが手動の削り器を回すと、シャリシャリと清涼な音が店内に響く。透明な氷の山にまんべんなくみるくをかけてから、その半分に、つやつや光るいちご蜜がたっぷり注がれる。優しい乳白色に赤がよく映える。カウンター席では、目の前でかき氷が作られる様子を見られるのもうれしい。煮詰めた果物の甘いにおいに、胸が高鳴っていく。

そっとすくい、口の中へ。蜜を最大限に生かす氷のくちどけ。上品なハーモニーが、目から舌から、流れ込んでくる。日本の心に語り掛けるようなその味はどこか懐かしく、いちごやかき氷にまつわる記憶を刺激する。
「商品自体も鮮やかさや色味を重視していて、このいちごみるくにもできるだけ真っ赤ないちごを使っています」と森西さんはうなずいた。

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