小田原漁港
早朝5時、静まり返った町を抜け、小田原漁港に向かった。30分後には水産市場でセリが始まるのだ。でも、そのわりには静か。怪訝に思いつつ、駐車場から市場に足を踏み入れて驚いた。突如、世界が一変。大勢の人が、ある人は駆け足で、ある人は手押し車を押して、ある人はフォークリフトを操縦して、せわしなく動き回っている。毎朝300人前後が出入りするそうだ。
すでに獲れたての魚たちを氷詰めにした箱が市場狭しと並べられ、また水槽で元気に泳ぎ回る魚たちもいて、各魚各様にセリの始まりを待ち受けるかのよう。ざっと眺め回しただけでも、かなり多くの種類の魚が集まっているとわかる。
半ば呆然としているところへ、市場の“水先案内人”が登場。小田原市役所経済部水産海浜課に勤める見坊俊明氏である。
「日本には約4000種ほどの魚がいると言われていますが、ここ相模湾ではその約3割に相当する約1600種の魚が獲れます。本当に種類が多いんですよ」と言う。
市場はざっくり二つのエリアに分かれる。手前が他の漁場から陸送されてきた魚で、その奥に真鶴・二宮・小田原などの地元で今朝水揚げされた魚が集まる。また東側には、船の水槽から大量の魚をフィッシュポンプで直接吸い上げ、自動選別機で仕分けをする一角がある。
卸業者や買受人など、セリの準備に集中する皆様の邪魔にならないよう、早足で一回り。見坊氏が片っ端から、魚の名前を教えてくれた。イワシ、ブリ、アジ、ワラサ、カマス、イサキ、タチウオ、クロダイ、イシダイ、カワハギ、ホウボウ、ヒラメ、シイラ、アナゴ、マイカ……魚の名はそこそこ知っているつもりでいたが、数に圧倒されてしまい、“これ何だっけ?”状態に陥ってしまった。
そうこうしているうちにセリの始まる時刻になった。見坊氏によると、「船が着いた順に、セリを行う」そうだ。米神とか平塚、原辰、石橋といった名前が書かれた黒板を見れば、何時にどこで獲れた魚のセリが始まるかがわかるという。