「料理を食べるというと味覚、嗅覚だけの作業と思われがちですが、五感すべてで感動するべきものだと思っているんですね。そのためには、まず、自分の五感を磨くことが何より大切ですから」
ある意味、料理はライブであると小室氏は言う。手品ではないけれども、どこかで驚かせることが必要だとも。例えば、見た目は普通なのに、驚くほど味が凝縮ししているとか、見た目や香りとはまったく異なる味がするとか。もちろん目指しているのは、本質をはずした驚かしではなく、むしろ本質だからこその驚きと言えばいいのだろうか。「食べたときに衝撃を与えたい」。小室氏の料理の発想の根源にはそんな思いも潜んでいるのだ。
「どこででも体験できるもののところには人は集まりません。ここでしか体験できないものに、人は価値を見いだすのです。一口噛んだときに口中が濃密な旨みで満たされ、驚く。そんな喜びでいっぱいにしたいと思っているわけです。
とはいえ、一番大切なことは、肩ひじ張らずにくつろいで食べていただけ、食べ終わったあとにゆるりとした満足感に満たされること。それこそが、料理人としての一番の幸せです」
小室光博 こむろ・みつひろ
1966年、東京生まれ。今は亡き、懐石料理の名店「和幸」で、十数年間修業を積み、2000年に神楽坂にて「懐石 小室」を開店。2018年に数寄屋造りの一軒家へ移店。2021年秋から、お取り寄せ、だしパックの販売などにも積極的に取り組む。
●懐石 小室
東京都新宿区若宮町35-4
TEL 03-3235-3332
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