幸福を呼ぶ料理 前編より続く
こうして、2000年8月に「麻布かどわき」はオープンした。「最初はヒヤヒヤです」とふり返る。「最初の1カ月の売り上げは、家賃と借金を払ったら少ししか残らないくらい」
ならばせめて深夜まで営業しよう、と2時まで店を開けていたところ、当時深夜族だった広告やマスコミ関係の人たちが集まる店に。「そこからなんとか盛り返すことができました」と、カウンターに食通のお客が並ぶ店へと一転した。
門脇氏は、「カウンターは、私にとってラボのようなものです」と言う。「お客さまの反応から多くを学びました。どんな料理が彼らを笑顔にするのか、あるいはサラリと流されてしまうか、徹底的に感じ取るよう努めました」
また、「『食べたらそれっきり』にはしたくなかった。しっかりと記憶に残る料理を作りたかった」とも。そんな中から、キャビアやフォワグラ、フカヒレを取り入れた料理が生まれた。「でも、異色なだけでは喜ばれない。きちんと日本料理の余韻があることが大事です。またコースを考える時は、新しい料理と伝統的な料理、両方の魅力を組み合わせるよう意識します」
今回門脇氏が紹介してくれた炊き合わせは、伝統の味の極致。「車海老も入っていますが、この料理の見どころは海老芋です。出汁がしみ、ねっとりと柔らかく、冬の根菜独特の甘みと深さがある。一見地味ですが、心に響く味です」
そしてもう一品、締めのトリュフご飯は、誰もが喜ぶオリジナル名物料理。「私にとってコースは、言うなれば、ヒット曲メドレーのCDのようなもの。サザンもあればドリカムも美空ひばりも、AKBもある。そして最後は皆が好きな曲で思いきり盛り上げます」
お客に「楽しい時間を過ごしたな」と感じてもらうよう、全力を尽くす。