直送、京の名店の味 より続く
山ばな 平八茶屋 園部晋吾
天正年間(安土桃山時代)創業の老舗料亭「山ばな 平八茶屋(へいはちぢゃや)」。壬生狂言にも登場する麦飯とろろを名物に、京の山海の幸を使った季節の料理を提供している。「京の雪見膳」では店の歴史上初めて、とろろを店以外で販売。背景には、京の食文化の担い手として、歴史を次世代に引き継ぐために発信を続ける若旦那の想いがあった。
「当店は街道茶屋として創業してから440年ほどになりますが、創業以来ずっと続いているのが名物の麦飯とろろです。使用している最上級の丹波のつくね芋は、風味が良く、アクが少なく、粘りが強い。手前味噌かもしれませんが、全国的に見ても丹波産のつくね芋は別格で、私は非常に好みです」と、京都・洛北の老舗料亭「山ばな 平八茶屋」の園部晋吾代表取締役社長は言う。
緑の濃い豊かな庭のある空間で、誰もがほっとできる料理ともてなしを。創業以来、血族で続けられてきた平八茶屋には、同じ想いが脈々と受け継がれている。それが麦飯とろろと共に人々の心をつかんできたからこそ、壬生狂言の『山端とろろ』にも、頼山陽の漢詩にも登場すれば、夏目漱石が正岡子規や高浜虚子を伴って訪れ、『虞美人草』の中でも言及している。北大路魯山人は書生の頃から頻繁に出入りしていたという。
「私の祖父が、ごりの飴焚きを焚いていたとき、魯山人がつまんで『これは甘すぎや』と言ったそうです。それでも祖父は『甘ない。これが、平八の味や』と言い切ってやったんや、とお酒が入るとよく話していました。頑固なところも、代々受け継いでいるのかもしれませんね」