一つ目の理由は自身のルーツを守るため。林氏の本家がある、そして幼い頃からたびたび訪れている島である手島(てしま※1)の人口が20人をきったこと。
※1 香川県丸亀市の港からフェリーで1時間ほどの場所にある瀬戸内海の小さな島
「このままでは近い将来、島のコミュニティーが消滅してしまうのは目に見えています。だったら私が手島に店を作ろうと考えました。そうすれば島の外から人を呼び、島に雇用を生み出し、人を増やすことができるのでは、と。そこにあった文化が失われてしまうことにも危機感を覚えました」と話す。
また、手島のこのケースは全国の限界集落に共通する問題であることにも気づいた。
「料理人目線からすると、特に郷土料理などの伝統的な食文化が失われるのは絶対に避けなくてはならないと思いました。そして日本料理の料理人こそ、そのための活動をすべきだとも。日本料理の源流は郷土料理にあるのですから」
林氏が独立を決意したもう一つの理由は、「日本料理の進化に取り組む」ため。
「今までの日本料理は、何十年にもわたって、定型を守ることを重視してきたように思います。もちろん伝統の継承も必要ですが、変化に取り組む料理人もいてこそ、発展するのでは。日本料理には今、発想の転換が必要だと思っています」
林亮平 はやし&12539;りょうへい
1976年、香川県生まれ。大学卒業後に「菊乃井本店」(京都)に入り村田吉弘氏に師事。17年間にわたり菊乃井で働く。2011年には上海万博会場の料亭「紫」料理長を務め、菊乃井では本店副料理長や赤坂店渉外料理長を務める。2018年、「てのしま」を独立開業。
●てのしま
東京都港区南青山1-3-21
1-55ビル2F
TEL 03-6316-2150
www.tenoshima.com