自分のルーツ、日本料理の源流 前編

「てのしま」の林亮平氏がめざすのは、日本料理のよりよい未来の実現。「みんなの和食」を掲げ、気取らない雰囲気ながら料亭仕込みの技術による日本料理を味わえる。

Photo Masahiro Goda  Text Izumi Shibata

「てのしま」の林亮平氏がめざすのは、日本料理のよりよい未来の実現。「みんなの和食」を掲げ、気取らない雰囲気ながら料亭仕込みの技術による日本料理を味わえる。

てのしま 白みそ仕立ての椀
タイの仲間の一種であるヘダイは、秋冬に脂が乗る。このヘダイに黄ニラを合わせ、白みそ仕立てにした。
ベースとなるだしは、熱々の湯に焼いたヘダイのアラを入れてふたをし、火にかけることなく自然に風味を抽出したもの。雑味がなく、かつ力強く旨み豊か。このだしで炊いた大根とともにヘダイの身と黄ニラを盛り、白みそ仕立ての地を張る。仕上げの香りは粉さんしょう。

てのしま 林亮平

小さい頃から絵本を読むように料理本を読み、好きなテレビ番組は「キユーピー3分クッキング」。家が共働きだったため、小学校の頃から台所で簡単な調理をする機会もあった。

そんな料理が身近な幼少時代を過ごした林亮平氏だが、料理を職業にしようと考えたのは大学在学中、就職活動の最中。
「料理人にならなかったら一生後悔する」との思いを無視できなくなり、著書に感銘を受けた「菊乃井」主人、村田吉弘氏に師事すべく同店の門をたたく。「ツテはゼロ。やる気を示すために坊主頭にしまして(笑)、自分の思いを手紙にしたためて持参しました」

この覚悟を伝える作戦が功を奏したのか、その後、林氏は菊乃井で研修に入り、そのまま就職。以降、17年間にわたって同店で働いた。

林氏のこの17年間は、料理人を超える経験を重ねる日々だった。というのも、入店からほどなくして、林氏は村田氏の補佐を担うようになったから。村田氏は日本料理界の牽引役として、活発にメディア出演や海外イベントなどを実施。その準備や指揮を林氏は任されたのだ。

菊乃井で過ごした17年間を、林氏は「一瞬でした」と表現する。それほど疾風怒濤を極めていた。しかし、だからこそ成長したとも言う。
「日本料理のトップを走り続ける大将(村田氏)の考えていることを間近で見て、聞いて、学ぶことができたのは得難い体験です。特に『日本料理の料理人たるもの、日本料理を通して社会貢献すべし』を有言実行する姿をもっとも近くで見られたなんて、こんなに贅沢なことはありません」

そんな菊乃井時代を経て、林氏が「てのしま」を独立開業しようと決意したのには主に二つの理由がある。

1 2
ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。