鳥取和牛の明日を担う4人衆 前編

鳥取和牛の真価は、舌と心を幸福感で満たす「とびっきりのうまさ」。繁殖、肥育、販売の各プロセスで「おいしい肉づくり」を目指し、飽くなき追求を続ける男たちを紹介する。

Photo Satoru Seki Text Junko Chiba

鳥取和牛の真価は、舌と心を幸福感で満たす「とびっきりのうまさ」。繁殖、肥育、販売の各プロセスで「おいしい肉づくり」を目指し、飽くなき追求を続ける男たちを紹介する。

鳥取牛生産者
鳥取牛のスペシャリストたち:(右上から時計回りに)鳥取県畜産試験場育種改良研究室室長・野儀卓哉さん、うしぶせファーム・岸本真広さん、鳥飼畜産・鳥飼雄太郎さん、前田牧場・前田皓さん

鳥取県には数百年に亘って牛と関わってきた歴史がある。その中で培われた良質な肉づくりの伝統がある。

始まりは平安時代だ。大山寺(だいせんじ)の高僧、基好(きこう)上人が「大山寺の地蔵菩薩は牛馬守護の仏」と唱えたのを機に、牛馬とともにお参りする人が増加。これが後の大山牛馬市につながったという。さらに明治末期、外国種の導入により和牛との交配が進められると、鳥取県は全国に先駆けて和牛の登録事業を始動。血統を登録し、改良目標の下で育種改良に取り組んだ。

うまさの系譜

鳥取県畜産試験場:科学の力で畜産を支える

改良を重ねて約40年を経た1966年、「怪物種雄牛」が誕生した。「気高(けたか)」号だ。生涯約9千頭の子孫を生んだ気高は、全国ブランド牛の始祖の一つとされる。もちろん現在高い評価を得ている「白鵬(はくほう)85の3」「百合白清(ゆりしらきよ)2」をはじめ、鳥取生まれの多くの種雄牛にも「気高」号の優れた遺伝子が脈々と受け継がれている。

では優良な種雄牛は、どのようにして造成されるのか。最重要ポイントは、遺伝子にある。このプロセスを担う鳥取県畜産試験場では、自治体で初めて遺伝子研究の設備を導入。先進的なゲノム解析を行っている。

  • 鳥取県畜産試験場1 鳥取県畜産試験場1
    広大な試験場には種雄牛舎、人工妊娠舎、研究棟などの建物が点在する。
  • 鳥取県畜産試験場2 鳥取県畜産試験場2
    (右)牛の肉質は、6割が遺伝で決まるとか。だからゲノム解析が重要なのだ。(左)牛の精液はストローに詰め、使用まで−196℃の液体窒素で保管される。
  • 鳥取県畜産試験場3 鳥取県畜産試験場3
    試験場では肉用牛や育種改良、酪農・飼料等に関する研究が行われている。
  • 鳥取県畜産試験場1
  • 鳥取県畜産試験場2
  • 鳥取県畜産試験場3

「一般的に牛は人工授精によって繁殖させます。ここではそのために必要ないい種雄牛の凍結精液を製造し、県内外に販売しています。優秀な種雄牛を造成するには、まず優秀な父と、母を探し、生まれた子牛の発育状態・体型等を見る検定試験、さらに精液の検査を受けた後、自身の子の肉質を確認する試験に合格してはじめて、種雄牛として認められます。その期間は5年を要します。それが遺伝子を調べるゲノム解析を使えば、無駄なくスピーディーに優秀な種雄牛をつくることが可能になります。

また昨年からは子牛セリで、取引される子牛に、血統に加えてゲノム解析による肉質評価値の表示を始めました。子牛の能力を保証して販売すれば、買う側は安心して買えるし、売る側の繁殖農家も親牛として残すべき牛と出荷して肉にする牛を明確に判別できます。ゲノム解析技術を活用して、鳥取和牛が全国の和牛をリードしていく存在になりたいですね」

野儀室長は、最先端科学を駆使した育種改良を通して畜産農家を支えている。

では鳥取和牛は、どのように育てられるのか。西部・中部・東部を代表する三つの牛舎を訪ねた。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。