我が国では今、とにかく「インバウンド・ビジネス」である。政府の掛け声倒れであった「地方創生」ではなく、我が国の地方経済は次々にやって来る外国人観光客が落とすカネで潤うところは潤っている。「これまで20年近く閑古鳥が鳴いていた商店街にヒトが戻ってきた」、あるいは「大型客船で中国人観光客がやって来ると町中の店で品物が飛ぶように売れてなくなってしまう」といった嬉しい悲鳴がしきりに聞こえる。
グローバル社会においてヒトだけが動くということはあり得ない。鉄則として必ずそこではヒトと共にカネが動いている。事実、例えば中国人観光客はある時期まで、我が国のATMで日本円を大量に降ろすためにやって来ていた。彼らは自国の通貨であるはずの「人民元」ほど危ないものはないと確信しているからだ。そのため、中国当局はまず銀行カードの獲得基準を厳しいものとし、次に1日の引き出し可能額を大幅に下げたのである。これらの措置によって状況は収まったかのように見えた。
しかし、である。
マスメディアは一切報じないが、今やもっと規模的に違うマネーの「大津波」が我が国に襲ってきているのだ。金融マーケットの深層においては、その関連での“うれしい悲鳴”が続々と聞こえてきている。
「東南アジア有数の、あの政府系投資ファンドが、我が国の大型不動産を鳴り物入りで物色している」
「アメリカ系越境する投資主体の雄とでもいうべき巨大ファンドが日本株を合計15兆円近くも取得した」
「韓国の有力財閥が我が国の大型商業ビルを買い占めようとするだけではなく、自社ブランドのホテルチェーン店を我が国で展開しようとしている」
とにもかくにもグローバルマネーによる「ニッポン礼賛」の連続なのである。実際、その関係での仕事は増えるばかりである。一般にはこうした怒涛のマネーと共にやって来る外国人たちの数ばかりが報じられるが、その実、莫大な量のマネーが我が国へと向かってきているというわけである。
しかし、ここでマーケットの猛者たちは実のところ知っているのだ。我が国のマーケットは外国から確かに大量の投資マネーを受け入れる。だが、そこで利益確定をして、しっかりとマネーを次のターゲットである他の国のマーケットへ移そうとすると、たちまち我が国の当局によって、ストップをかけられてしまうのである。確かに我が国においても「資本移動の自由」が法的にはうたわれている。だが現実はというと、そのような御題目など一切無視する形で我が国の当局、そしてその「行政指導」を受けた金融機関は半ば公然と、いったん入ってきたグローバルマネーが海外に流出することを阻害するのである。「行きはよいよい、帰りはこわい」とは、まさにこのことなのではないだろうか。事実、我が国の大規模不動産プロジェクトに投資を行うと、そこで利益確定をしたマネーを無事に引き出せるのは、えてして20年ほど後になってからなのだ。実に恐ろしきは日本マーケットの「狭き出口」というわけである。
「しかし、現実に大規模な投資はグローバルマネーによって行われているのではないか。そうである以上、何らかの形で外国送金は行われているはずだ」
勘の良い読者は必ずや気づかれたはずである。実は当局がこのようにブロックしているからこそ、我が国のメガバンクを巻き込んだ形での「隠密の資金移転スキームM」が存在する。それは普段、姿を見せず、ステルスだ。しかし莫大な金額を動かそうとすると、どこからともなくその関係人士が現れるのである。「狭き出口の向こう側に陰の男たちあり」――今日も人知れずグローバルマネーを世界の奥底へと我が国から動かす者たちがいる。それがまぎれもない「世界の真実」なのだ。
原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。
※『Nile’s NILE』に掲載した記事をWEB用に編集し再掲載しています