贈与税と相続税の一体化とは何か
政府税制調査会で相続税と贈与税の一体化を進める検討会がスタートしたそうだ。そもそも一体化という言葉自体が一般になじみがない。
そこで今回は「資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等について」(令和2年11月13日財務省資料、以下「財務省資料」)をテクストにしてこの問題についてコメントしてみたい。
暦年課税とは
相続税は相続等により財産を取得した場合に、取得した財産の価格を課税標準として課される税金であり、課税の根拠として相続人等が無償で取得した不労所得に対する所得税の一種、あるいは一部の富裕層に富が集中することを抑制して国家が徴収した税額を社会に還元する機能を有していると説明されている(※1)。
(※1)『令和元年版 図解相続税・贈与税』(大蔵財務協会)p.56を要約。
一方、贈与税は被相続人が生前に贈与することで相続税の課税額を軽減することを防ぐため、いわば相続税の補完的な役割を担っている税制として説明されている。
相続税率、贈与税率ともに10%から55%の超過累進税率が適用されるが、55%の税率適用が相続税は6億円超(※2)から、贈与税は4500万円超からというように贈与税の税率の上がり方が急になっている。
(※2)相続税の正しい計算の仕方は、課税遺産総額に対していったん法定相続分で按分した上で相続人別の相続税を計算して合計し、その合計額を各人の実際の分割取得割合で按分する方式を取っている(法定相続分課税方式)。税率は法定相続分で按分したところの各人の遺産額の大きさに応じて決定される。
現行の贈与税は暦年課税方式がとられていて、カレンダーベースで毎年申告・精算し、過去に支払った贈与税が将来の相続税に影響を与えることは原則ない(※3)。しかるに相続税と贈与税で異なる税率テーブルが用いられているため、次のような節税策が一般的に用いられている。
(※3)相続開始3年以内の生前贈与財産の相続税課税価格への加算及び贈与税額の相続税からの控除(相続税法19条)や相続時精算課税(相続税法21条の9)があるがここでは触れない。
ポピュラーな節税策
相続税と贈与税の税率構造(課税価額と税率の対応)が同一であれば、前もって贈与しなくても相続税と比較した税負担額は同じになるが、異なる税率構造が採用されているため次のような節税策を取ることができる。
例1)相続財産が4000万円の場合は相続税率20%が適用される。これに対して400万円ずつ10年間にわたり毎年贈与すると、毎年の贈与税率15%が適用され5%の節税が可能。
例2)相続財産が6億円の場合は最高税率55%が適用される。これに対して4500万円ずつ13年強にわたり毎年贈与すると、毎年の贈与税率は50%が適用され5%の節税が可能。
この方法は両者の税率構造の違いに着目して毎年、子供等に贈与するポピュラーな節税策として以前から知られている。
贈与税の税率表では700万円で実効税率が16%となり、連年贈与する層のうち約90%は700万円以下に集中している(財務省資料p.31)。私どものクライアントでも連年贈与をされている方は結構おられる。
財務省資料を読むと、相続税の節税策として一部富裕層の間でポピュラーなこの方法を封じる方向で検討していることが次の説明を見ても明らかである。
「諸外国では、相続と生前贈与をより一体的に捉えて課税を行うことで、資産移転の時期の選択に対する税制の中立性を確保している例が見られる。例えばアメリカでは、累積贈与額と遺産額を合わせた生涯の資産移転額に対する累進課税を行うことで、資産移転の時期の選択に中立的な税制となっている。(中略)我が国においても、こうした諸外国の例を参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直し、格差の固定化を防止しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制を構築する方向で、検討を進める必要がある」(※4)
(※4)令和元年9月26日政府税制調査会(財務省資料p.36)。
この資料を読むと、資産移転の時期の選択に中立的な税制が欧米スタンダートだからわが国もそうしなければだめである、ということらしい。
ではアメリカの遺産税(わが国の相続税に該当する)・贈与税は実際のところどうなっていて、わが国とは何が違っているのか。そもそも資産移転の時期選択の中立性とは何なのか。
これらについては次回で説明したい。
本稿のまとめ
☑政府税制調査会で相続税・贈与税の一体化論議が開始された。
☑連年贈与することで相続税額を軽減することが可能。
☑アメリカでは生前の累積贈与額と遺産額の合計に対して累進課税を行う。
永峰 潤 ながみね・じゅん
東京大学卒業後、ウォートン・スクールMBA。
監査法人トーマツ、バンカーズ・トラスト銀行等を経て、現在は永峰・三島コンサルティング代表パートナー。
※『Nile’s NILE』2021年2月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています