固有種から珊瑚へ
沖縄・やんばる

巨大なシダの葉が幾重にも重なる、うっそうとしたやんばるの森を歩く。どこからか「キュッキュッキュッ」とヤンバルクイナの特徴的な鳴き声が響いてくる。低くうなるようなヤマバトや、鳥のようにおおらかに鳴くオオシマゼミもいて、森の中はにぎやかだ。

Photo Satoru Seki  Text Rie Nakajima

巨大なシダの葉が幾重にも重なる、うっそうとしたやんばるの森を歩く。どこからか「キュッキュッキュッ」とヤンバルクイナの特徴的な鳴き声が響いてくる。低くうなるようなヤマバトや、鳥のようにおおらかに鳴くオオシマゼミもいて、森の中はにぎやかだ。

遊歩道のロープで休んでいた、やんばるの固有種・ハナサキガエル。体長は5~7㎝程度で、手足が長く、ジャンプ力が強い特徴を持つ。そっと近づけばあまり逃げない。

足元には清らかな川が流れ、天然記念物のホルストガエルやリュウキュウヤマガメなど、沖縄固有種の小さな生き物たちがそっと姿を見せてくれた。渓流のゆるやかな流れはカエルの産卵に適し、他にもイモリやトンボ、サワガニなど無数の命のゆりかごとなっている。

かつて沖縄本島が大陸とつながっていた時代に生息していた生き物が、大陸では絶滅し、沖縄だけに残されている例も多い。とりわけ、やんばるの森は多くの希少な固有種がすむ“奇跡の森”として保護されている。

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    高台からやんばるの森の海岸線を望む。色が濃くなっている部分は水深が深く外界につながっていて、白波が立ち色が薄くなっている部分が珊瑚礁。
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    森の上からビーチを見下ろす。一見、美しい海だが、近年、沖縄では海水温の上昇や水質の悪化、土地開発による土砂の流入などが原因で珊瑚礁が減少している。海の森である珊瑚とそこに生きる多様な生物を守るため、土砂の流入や汚染物質への対策を含む総合的な保護活動が続けられている。
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    かわいらしい顔を見せてくれたリュウキュウヤマガメ。
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「山々が連なり、森が広がる地」、すなわち「山原(やんばる)」は沖縄島北部一帯を指す言葉だ。照葉樹林では国内最大級の広がりを有し、降水量が多く湿度が高いという特徴を持つ。

そのため、やんばるの森は生き物のゆりかごというだけでなく、沖縄全土の“水がめ”という重要な役割も担っている。粘土質の赤土は貯水に適し、森で蓄えられた水が9つのダムに集められ、人々の生活を支えている。

やんばる学びの森センター長兼自然ガイドの大城和也さんによると、ダムが整備される前の沖縄では、水不足が深刻だったという。やんばるでも家屋の屋上に雨水タンクを設置していたが、マラリアを媒介する蚊が大量発生するなど、衛生面で課題があった。

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    やんばるの森の中を流れる、流れのゆるやかな川。
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    太古より生きる日本最大級のシダや龍のような姿のシダが自生する。
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    絶滅危惧種のオキナワキノボリトカゲ。緑色にも変色できる。
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やんばるの木々は、昭和中期までは薪や建築資材として活用され、一時は森が丸裸になるまで伐採されていた。しかし、亜熱帯の気候に恵まれたやんばるの森は、人間による需要が減ったのち、驚異的なスピードで成長を遂げた。冬がなく、一年中植物が育つためだ。

森の復活とともに、なんとか生きながらえていた動物たちも再び繁栄を見せている。

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    シダの葉に止まったリュウキュウハグロトンボ。青緑の体色が美しい。
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    日が差すと虹がかかることから「虹の滝」と呼ばれる滝。
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    水の中の石を裏返すと、清流にしかすまないトビケラの幼虫がいた。
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    せせらぎが運んだ落ち葉を水生昆虫が食べ、微生物が分解する。
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人間を含む動物たちの命の水であるやんばるの森の水は、最後には海に流れ着く。森の養分は海で動物プランクトンの餌となり、それを食べる巨大な珊瑚の森を育んでいる。珊瑚は色とりどりの沖縄の魚たちの貴重なすみ家となり、海の生物多様性を支えている。

やんばるの森の一角、国頭村の辺土名沖では昨年、海水温の上昇に伴う珊瑚の白化現象が発生し、約7割の珊瑚が死滅する危機に見舞われていた。しかし今年6月、このエリアの珊瑚が、海の中に細雪を降らすような一斉産卵をする様子が確認されている。

森と海がつながっているからこそ、命は絶えず受け継がれていく。やんばるの森と珊瑚の海が織りなす美しい風景が、それを教えてくれている。

海風が心地良い緑のトンネルの先に、美しい海が広がっていた。奥のビーチは、国頭郡東村(ひがしそん)のウッパマビーチ。「ウッパマ」とは「大きな浜」という意味で、約1㎞の白浜が広がる。観光客が少ない穴場的なビーチだ。

※『Nile’s NILE』2025年11月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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