ローマから始まる Incipit Romae

その始まりは、小さな集落だったという。紀元前753年、古代イタリア人の一派であるラテン人によって、テベレ川のほとりに建国された都市国家ローマ。その後、1000年もの間、地中海世界に君臨するローマ帝国を築く端緒となったのは、ローマ街道の最初の道である「アッピア街道」と、海外に初めての属州として手に入れた「シチリア島」であろう。“街道の女王”の異名を持つアッピア街道と、“地中海の交差点”と呼ばれるシチリア島の記憶を訪ねる。

Photo Chiyoshi Sugawara(P1~3) / Masahiro Goda(P4)  Text Nile’s NILE

その始まりは、小さな集落だったという。紀元前753年、古代イタリア人の一派であるラテン人によって、テベレ川のほとりに建国された都市国家ローマ。その後、1000年もの間、地中海世界に君臨するローマ帝国を築く端緒となったのは、ローマ街道の最初の道である「アッピア街道」と、海外に初めての属州として手に入れた「シチリア島」であろう。“街道の女王”の異名を持つアッピア街道と、“地中海の交差点”と呼ばれるシチリア島の記憶を訪ねる。

Brindisi

イタリア特集、ローマから始まる
アドリア海に面した港湾都市であるブリンディジには、アッピア街道の終点を示す柱が堂々と立つ。ローマ帝国時代から地中海の要衝として栄えたブリンディジは、19世紀中ごろにスエズ運河が開通するとフランスのマルセイユなどと並び、アジアとヨーロッパを結ぶ航路の発着地の一つとなった。

そもそもアッピア街道を建設した目的は、機能的な軍用道路の確保だ。だから、流れ出た溶岩に添って、丈夫でまっすぐな街道を造った。道幅は4m以上で戦闘用の馬車が行き違える広さ、車道の両側には1~3m程度の歩道が設けられていた。車道と歩道は分離されており、川や谷には橋を架けて、できるだけ街道と同じ高さになるようにしてある。

さらに、特筆すべきは、基本的な舗装構造が現代の舗装道路と酷似していること。断面で見ると、深さ1.5m程度の4層構造になっており、下層路盤が大きな石、中層路盤が中くらいの石、上層路盤が粘土と砂利を混ぜた層、表面は分厚く頑丈な玄武岩で隙間なく埋め尽くされている。つまり、表面の玄武岩をアスファルトやコンクリートに置き換えると、ほぼ現代の舗装道路と同様の構造というわけである。

また、街道のすぐ脇に樹木を植えることを禁止した。というのも、地下に伸びる根が、街道の車道部分に侵食するのを防ぐためだ。

こうした道路に関する規定は、前450年に完成したローマで最初の成文法「十二表法」に詳しく定められている。ローマ伝統の卓越した土木技術は、こうした法の下、後世に確実に残すことができたのだろう。

アッピア街道の当初のルートは、ローマのセルウィウス城壁出口の一つカペーナ門(カラカラ浴場付近)を起点に、カンパニア地方のカプアまでを結ぶ212㎞。その後、ベネベント、ターラントを経て、ギリシャ方面とつながる主要港であり、アドリア海に面するブリンディジまで延長して全長約540㎞に。この距離を2週間ほどで移動できるようになっていたという。

まっすぐで頑丈な街道を建設することで、軍を迅速に移動させ、各都市を制圧。全イタリア半島にその勢力を広げたのである。ローマを中心に放射状に延びるローマ街道は、375本の幹線だけで8万㎞以上、支線を合わせると最盛期には全長約32万㎞に及ぶ巨大なネットワークを形成。ローマの文化や技術、帝政末期に国教となったキリスト教を、世界に普及させたのだ。

表舞台から消えたアッピア街道

強大なローマ帝国の滅亡後、アッピア街道は、歴史の表舞台から姿を消し、長らく使われていなかった。しかし18世紀に入り、ローマ教皇ピウス6世の命により修復され、再び利用されるようになる。

街道の広い部分は元の状態で保存されており、ところどころは今も自動車道として“現役”である。ローマに近い街道沿いには、ローマ時代の墓碑や初期キリスト教のカタコンベ(地下墓所)なども数多く残っている。

1960年、ローマ・オリンピックの陸上男子マラソンのフィナーレを飾る舞台として“現役”のアッピア街道が世界中から熱視線を浴びた。暮れ落ちた石畳の街道を裸足で走るエチオピアのアベベ・ビキラの姿は、古代ローマの英雄を彷彿(ほうふつ)させていた。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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