仙台都心からわずか30分の秘境
緑に覆われていた視界が開け、轟々とカミナリのごとき大音量で流れる白滝が現れる。「秋保(あきう)大滝」は、幅6m、落差55mのまっすぐに落ちる直瀑で、栃木県の華厳の滝や和歌山県の那智の滝と並び、茨城の袋田の滝と競り合う日本三名瀑の一つに数えられることもある名勝だ。その姿を秋保大滝不動尊の滝見台から見下ろした後、遊歩道を通って滝つぼへ。滝つぼから見上げる大滝はまた圧巻で、水しぶきのマイナスイオンを浴びながら、自然の力を体感できる。秋保大滝不動尊を開いた比叡山延暦寺三世座主の慈覚大師円仁(えんにん)は、この大滝に魅せられ、この地を山寺の奥の院としたと伝えられている。
秋保大滝は秋保温泉から車で約20分の距離にあり、入湯がてら観光に訪れる人も多い。仙台駅から秋保温泉は車で30分ほどと近いため、一帯が仙台の奥座敷として地域の人々にも親しまれてきた。都市部から少し足を延ばすだけで、これだけの大自然が広がっていることに驚かされる。付近の山は山形県と宮城県との県境に位置する二口(ふたくち)山塊に連なり、その懐深く発した清水が奥秋保の急峻な地形をめぐり、各地に多彩な瀑布を生んだ。秋保大滝のほかにも、平らな沢床がすだれのような流れを作る「すだれ滝」、河童伝説の残る岩の間の「釜淵」、巨大な一枚岩から細雨のごとき飛沫(しぶき)のカーテンがたなびく「雨滝」などがあり、個性豊かな滝めぐりが楽しめる。「雨滝」の傍らには、天水分神(あめのみくまりのかみ)を祭神とする雨山神社がたたずんでいる。
もう一つ、秋保の森を特別なものにしているのが、無骨で荒々しい巨岩、奇岩が織りなす景観だ。特に、夏目漱石の門人で東北大学名誉教授の小宮豊隆氏が名付けたという「磊々峡(らいらいきょう)」は、その名の通り、ごろごろとした岩が名取川に覆いかぶさるように迫る美しい峡谷だ。この磊々峡の中心に、秋保温泉街の入り口にあたる覗橋(のぞきばし)が架かっていて、橋から巨岩の群れと岩を削りながら流れる急流を見下ろすことができる。渓谷沿いの遊歩道では、「奇面巌(いわ)」や「八間巌(はちけんいわ)」「時雨滝」などの岩場や滝の奇勝を楽しみたい。渓谷の緑が濃い春から夏にかけて、また紅葉が水面に映える秋には、いっそう美しい景色が迎えてくれる。
秋保地区を貫く二口越え最上街道は慈覚大師ゆかりの修験の道であり、出羽三山参りの信仰の道にもなっていたことから、近隣の小径に無数の石塔や供養塔が立っているのも印象的だ。いわれを知らなくても、むせるような緑の中に、無数の滝と巨岩奇石の風景が広がり、急流の音や鳥のさえずりがこだまする秋保は、信仰を呼び起こすような荘厳で清浄な空気に満ちている。景観を楽しみながら森の中をどれだけ歩いても、その後に温泉で心身を癒やす褒美が待っていると思えば怖くない。秋保には、温泉旅館のほかにも、源泉かけ流しで泉質が良いと評判の共同浴場があり、神経痛や腰痛に効果があると言われる名湯を堪能できる。
水と巨岩の杜 -秋保特集-
東京から最短2時間でたどり着く宮城・仙台の秋保温泉郷。その周囲には、みずみずしい森と、急峻な地形がもたらすいくつもの名瀑、そして水に浸食された巨岩・奇岩の群れが織りなす、ダイナミックな景観が広がっている。里に建てられた無数の石塔や社の“道ばたの神々”をめぐりつつ、欽明天皇以来「名取の御湯」として守られてきた温泉を訪ねた。
東京から最短2時間でたどり着く宮城・仙台の秋保温泉郷。その周囲には、みずみずしい森と、急峻な地形がもたらすいくつもの名瀑、そして水に浸食された巨岩・奇岩の群れが織りなす、ダイナミックな景観が広がっている。里に建てられた無数の石塔や社の“道ばたの神々”をめぐりつつ、欽明天皇以来「名取の御湯」として守られてきた温泉を訪ねた。
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