ワインが紡ぐ東北と秋保の物語

秋保の谷間に流れる涼やかな風や、秋保石が含まれたミネラル豊富な土壌により、味わい深いワインを生み出す秋保ワイナリー。ワインとともに楽しんでほしいのは、食材王国と呼ばれる宮城、そして東北の豊かな食材とのマリアージュだ。現地を訪れ、ワイナリー創業に込められたその思いをうかがった。

Photo Satoru Seki  Text Asuka Kobata

秋保の谷間に流れる涼やかな風や、秋保石が含まれたミネラル豊富な土壌により、味わい深いワインを生み出す秋保ワイナリー。ワインとともに楽しんでほしいのは、食材王国と呼ばれる宮城、そして東北の豊かな食材とのマリアージュだ。現地を訪れ、ワイナリー創業に込められたその思いをうかがった。

ワインが紡ぐ東北と秋保の物語、秋保ワイナリー
「究極のマリアージュは産地にある」と語る秋保ワイナリー代表取締役の毛利親房氏。ワインとともに地元の旬の食材を楽しんでもらえるよう、生産者を招いたマルシェやBBQ、メーカーズディナーを開催している。

「食との結びつきが強いワインを通じて、農家さんや漁師さんの応援がしたい。そう考えてワイナリーをスタートしました」と話すのは、秋保(あきう)ワイナリーの代表取締役である毛利親房氏。磊峡(らい々らいきょう)のすぐ近く、秋保温泉郷のほぼ真ん中で、小さな醸造所とゆったりとしたワインガーデンを囲むようにぶどう畑が広がっている。

以前は建築設計に携わっていた毛利氏がワイナリー経営を始めたきっかけは、2011年の東日本大震災だった。津波により壊滅的な被害を受けた宮城県の沿岸部。震災前にあった県内唯一のワイナリーもなくなってしまった。そんななか毛利氏は、ワイナリーの再建が被災した生産者の復興を支える軸になる……と考えた。ワインには食のシーンを通じて地域の産業や文化をつなぐ力があり、集客も期待できるからだ。

しかし沿岸部での再建には多くの問題があり、やむなく断念。諦めかけていたところで「ワイナリーがどこにあっても、生産者との連携はできる」と思い浮かんだのが、よく訪れていた秋保だったのだ。耕作放棄地をぶどう畑にできないだろうかと知人に相談したところ、地元の名士の協力も得てすぐに土地が見つかり、この地でぶどう作りから始めることになった。

「ぶどう畑に重要で、人の手では決して変えられない条件が、日当たり、水はけ、風通し。ここにはすべてがそろうだけでなく、秋保石を含んだ土壌がミネラル豊富なため、オリジナルのワインができるんです」

紆余曲折を経て14年に創業し、翌年末にオープンした秋保ワイナリーは、今年10周年を迎える。

「質の良い原料を使って、基本に忠実に醸造するのが私たちのスタンス。現在はここに約2ha、車で20分ほど離れた場所に約1haの畑を持ち、14品種のぶどうを育てています」

毛利氏が創業当初から目指すのは、人・食・文化・産業をつなぎ、そのストーリーを伝えること。ワインづくりと並行して、多くの同業者や農家、漁師とコミュニケーションを取り、マルシェや食材の背景を伝える食事会などを開催してきた。さらに18年には、東北全体のワインツーリズムを牽引する「テロワージュ東北」を設立。“テロワージュ”とはテロワールとマリアージュの造語で、地酒と地元食材・特産品を通して、東北各地の生産者、料理人、醸造家のバックストーリーを発信する活動を行っている。そのコンセプトを体現すべく、秋保ワイナリーでは今年の7月にレストラン「テロワージュ秋保」をオープンする予定だ。

「今年、秋保にはブリュワリーができ、今後は新たなワイナリーがオープンする予定もあります。地元のお酒や食を堪能しつつ、作り手や住民と語り、美しい自然風景や伝統文化、工芸品などに触れる旅を楽しんでください。産地にこそ、最高のマリアージュがあるのですから。特に秋保は皆さん気さくで温かく、人こそがこの地の魅力になっている。ぜひさまざまなところで地元の人と話してみてほしいです」

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    南北を山に挟まれた谷間の南斜面に広がる約2haのぶどう畑。涼やかな風により果実が冷え、酸味を保ったまま完熟するため、ワインに適したぶどうが収穫できる。
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    ワインガーデンの一角に止まるのは、「テロワージュ東北」のキッチンカー。さまざまな産地をめぐり、最高においしいマリアージュを伝えている。奥のグレーの建物に醸造室やカフェがある。
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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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