京都は旨い!

“千年都市・京都”には古来、「旨い!」が蓄積されてきた。御所という存在、全国から集まる食材に加えて、京都固有の「旨い」を作る水がある、土がある、知恵がある、そして料理人がいる。京都府副知事・山下晃正、京都𠮷兆・徳岡邦夫、元麻布かんだ・神田裕行の三氏に、大いに語っていただこう、「だから京都は旨い!」のだと。

Photo Masahiro Goda  Text Junko Chiba

“千年都市・京都”には古来、「旨い!」が蓄積されてきた。御所という存在、全国から集まる食材に加えて、京都固有の「旨い」を作る水がある、土がある、知恵がある、そして料理人がいる。京都府副知事・山下晃正、京都𠮷兆・徳岡邦夫、元麻布かんだ・神田裕行の三氏に、大いに語っていただこう、「だから京都は旨い!」のだと。

鼎談の舞台は京都府庁の旧本館2階南東角に位置する旧知事室。1905(明治38)年から1971(昭和46)年まで、67年間にわたって使われた。東側の窓からは比叡山を望む。

まずは宇治茶をと山下副知事。天皇杯を授与された下岡久五郎氏と、伝統的な生産方法を貫く吉田利一氏の手によるお出汁のようなうまみのある玉露で一息ついたところで、鼎談がスタートした。

左から、京都府副知事・山下晃正氏、元麻布かんだ・神田裕行氏、京都𠮷兆・徳岡邦夫氏。

京都は傾斜地。北の方が水はいい

山下 平城京のあった奈良の中心部は、今は公園で鹿さんがいるだけですね。でも、平安京の京都は千年以上続いて、いまだに産業と生活の中心地として機能しています。それはなぜか。水なんです。1人当たり使える水の量が、平城京の5倍だとか。

神田 質ではなく量ですか?

山下 第一に量ですね。京都は三方が山に囲まれていて、地下に琵琶湖に匹敵するくらいの水があると言われています。北大路から南へ、緩やかに傾斜しています。

徳岡 北の方がちょっと高いですね。

山下 そう、京都タワーと同じくらい、100mちょっと違うんですよ。それで一番北に茶道のお家元があって、少し下がって豆腐とかの食品を作ってはる人がいて、さらに南が染め物のお家なんです。

神田 北が一番いいお水なんですね。水は高きから低きへ流れ……

山下 万物を養う自然の摂理です。

神田 京都の料理屋でお出汁がおいしいのは、やっぱり京都の水がおいしいからですか?

徳岡 うん、水ですね。

神田 今でも水道水が使えますか?

徳岡 ええ、うちも出汁は水道水です。もちろん、そのまま使うのではなく、浄水・アルカリイオン化して使ってます。ほかに京都は名水を含めて水脈がいろいろあって、全部違います。今、「神聖」の山本源兵衛さんなどの、蔵元から仕込み水をもらって、出汁ひいてみて、どう違うかを比べてます。季節によっても水質が変わるので、常に見ていないと。比較的安定しているのが水道水なので、ベースにしているという感じです。

神田 東京だと、水道水はムリ。うちは今、お出汁は伊豆の観音温泉水です。アルカリpHが9.5なのに超軟水っていう、なかなか面白いバランスのお水です。昆布で一番出汁をとっても、全く濁らない。

徳岡 へぇ。昆布や鰹と水の相性もあるんでしょうね。

“暴れ川”が肥沃な土を作る

山下 京都は土もいい。同じ年代の古墳を掘る時、京都は奈良よりも深く掘らなくてはいけないそうです。何でかと言うと、何回も洪水が起こってるからです。賀茂川も“暴れ川”だし、洪水のたびに上流から肥沃な土砂が流れてきて、京都を埋める。

徳岡 僕が子供の頃から桂川も、よく氾濫しました。今年のはかなりひどかったけど。

神田 だから、比較的最近の柔らかい土の重なりになってるんですね。

山下 これ、京都の「祝(いわい)」という酒米で造ったお酒、どうぞ。昭和40年代から栽培が途絶えてましたが、20年ほど前に復活しました。この酒も京野菜も宇治茶も京都でおいしいのができるのは……

徳岡 水と土壌ですね。

神田 京野菜に共通する柔らかさとみずみずしさは、土だと思いました。

知恵の集積

山下 水と土という自然の摂理の上に、いろんな人間の知恵が積み重なって、京料理ができたと思う。

神田 昔から料理屋さんが多いし。

徳岡 御所があったというのが大きいね。全国から豊富な食材が届いて、質・量ともに上がったこともある。ただ、魚は少ない。川魚か塩干物か。あとは鱧、鯖、ぐじ……

神田 鱧だけが唯一、“生き”で持って来られたんでしょ? 落語に、鱧を籠に入れて山越えて運ばれて、途中で逃げるやつがいて、「京都の鱧は山でとれる」みたいな話がありますから。

徳岡 あ、そうか。生きたまま運ばれて。かなり生きますもんね、鱧は。

神田 若狭ぐじとか鯖は一塩してから運ばれて。ほかの国の首都と違って、京都は比較的海に近い都だから、海産物にも恵まれてましたよね。

山下 昆布も北海道から北前船で福井に来て、そこから京都へ。海流が激しくて、太平洋側には運べませんから、京都にいい昆布が入ったのも、自然の摂理かなと思ってるんです。

神田 なるほど。乾物では、京都の人はにしんをよく食べるんですか? にしんそばは京都にしかないような。

徳岡 乾物の技術が発達していて、そばとひっつけたのが京都のアイデア。京都産のそばはないんです。それで今、京丹後市でやっている「トライアル農地」というプロジェクトの一環で、そばを作ろうとしています。京都の人も実はそば好きなんだって。クオリティーの高いそば屋の出店率が東京と並んで高いそうです。

神田 そばは、お米のできない山間部で主食として発達してきたんですよね。

徳岡 そう。今も減反対策でやってるところはあるんですが、本気で作ってない。それを本気でやろうと。それと、京野菜について言えば、もともとは外来種だったものが京都に根付いた、そこに知恵というか、工夫があったように思います。例えば、えびいもも基本的に里芋。親株を分けて、子株一つひとつが長くなるように育ててるんです。

神田 堀川ごぼうも品種でなく?

徳岡 普通のゴボウ。聞いた話では、秀吉の聚楽第が壊されて、堀がゴミ捨て場になって有機物に富んだいい土壌になった。そこにたまたま巨大なゴボウが育ったと。浅く斜めに植え付けると、太く肥大するんだね。

神田 へぇ。それにしても、誰がこのコをこんなに大きくしたのか。

山下 京都の野菜は、丸く大きくなると、誰かが言ってました。丹波栗も大納言小豆も黒豆も、みんな丸くて大きいでしょ。

神田 その辺も、質のいい水と土あっての知恵の集積でしょうね。

徳岡 ただ、あえて苦言を呈したいのは、例えば京野菜というだけで売れてしまう現象にあぐらをかいて欲しくないということ。うちは京都産かどうかより、いいものを使いたい。メント方式でえりすぐってますし、野菜も京都を含む全国の一生懸命有機農業に取り組む生産者さんとコミュニケーションをとりながら入れてます。

神田 そうですよね。僕も無農薬のおいしいお米を求めて、南魚沼の塩沢町の道路の右側の田んぼに手植えしに行ったりしています。

徳岡 「旨い」の産地はピンポイントで、しかも毎年そことは限りませんからね。

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    「京の伝統野菜37品目、京のブランド産品27品目などを認証し、京野菜のブラン化を進めています」と山下副知事。
  • 京都は旨い! 京都は旨い!
    水が旨いから、酒も旨い。伏見に湧き出る「御香水(ごこうすい)」を始め「金名水」「銀名水」「白菊水」など多くの名水伝説が残る。
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    極上の宇治茶は、京都の水で入れると、いっそううまみが増す。最近はスイーツ界で“抹茶ブーム”を起こしている。
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料理の洗練の源泉はお客さん

山下 接待なんかで面白いと思うのは、いい意味で「うるさいお客さん」が多いこと。例えば、前と同じ値段の料理でも、気に入らないと「今日のは高い」とおっしゃる。それは大事なことだと思うけど。

神田 東京のお客さんはたぶん、気に入らなくても何も言わないけど、二度と来ない。京都は東京よりちょっとコミュニティーが小さいから、他へ行くより、うるさいことを言うてでも、育てていこうと思うのではないでしょうか?

徳岡 そうかも。僕も若い頃、特に料理長になりたての時は、よく座敷に呼び出されて、「おじいちゃんはな」って話をとくとくとされて。でも、毎月来てくださる。代々長いお付き合いをさせていただいてます。

神田 代々はないんだけど、うちで難しいのは、ミシュランのおかげで外国のお客さんが増えたことです。例えば、中国から見えた老夫婦とアメリカのビジネスマンと、同じ料理を出したらバカでしょ? そういった国によって違う嗜好に、どれだけ応えられるかが一つのポイントになります。万人においしい料理はありえませんから。

徳岡 本当にありえないですね。

神田 まぁ、そこが面白くて、僕はカウンターに立ってるんですが。

山下 結局、お客さんの反応が大事なんですね、料理人さんは。

徳岡 もちろん。水も食材も気候や環境で変わりますから、常に「ここのがいい」というのはない。自分たちでチェックして、お客さんの反応も見て、臨機応変に変えていかないと。だから「原料はいつも違うぞ。毎日、同じことをするなよ」というのが調理場の合言葉です。

神田 うちでも料理の基本はそこだと思ってます。

山下 ところで、京都では天然のいい砥石がとれるそうです。愛宕山に近い所で。砥石があれば、いつも切れ味のいい包丁を使えますね? その部分でも、料理人は京都に引き寄せられたんじゃないでしょうか。

神田 でも何より、御所を中心に偉い方がたくさんおられたから、優れた料理人が集まった。彼らが腕を競う中で、味も洗練された。今となっては、「旨い」を求めて大勢の観光客が来るわけで、店も料理人も増え、質も上がるのは道理です。そもそも平安京になった時点で……

一同 京都は豊かな水と土に恵まれた、選びに選び抜かれた土地なんですよね。

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    京野菜
    聖護院だいこん:文政年間(1818 ~ 30年)に、尾張の国から黒谷金戒光明寺に奉納された長大根の種を譲り受けて聖護院で栽培され、数年でできた短形のものを選抜して丸形の品種が育成された。
    京壬生菜:みず菜の変種。中京区壬生(みぶ)付近が発祥地。芥子(からし)菜のような
    辛みが少し感じられ、独特の香味がある。壬生菜の丸葉はみず菜の切れ葉とともにブランド商品として棚に並ぶ。
    堀川ごぼう:420年ほど前、聚楽第のお堀にたまったゴミや有機物の中で育ったゴボウがルーツ。1年以上かけて栽培するこのゴボウは、直径8㎝、長さ80㎝にも達する。中は空洞。
    九条ねぎ:栽培の歴史は約1300年。都の南、有機物に富んだ土壌が堆積
    した九条辺りで、品質の良いネギが栽培されたことからこの名
    がついた。近年は府内全域で栽培。葉が柔らかい。
    金時にんじん:表面だけではなく中まで真っ赤。肉質が柔らかく、甘みがあり、かす汁や正月のおせち料理など、冬の料理の彩りには欠かせない。間引き菜は葉も食べられて、あえ物に最適。
    えびいも:里芋の一種である唐の芋を用い、特殊な土入れ作業を行って湾曲させた大きな子芋。安永年間(1772 ~ 81年)に京都市祇園平野家「いもぼう」の祖先が栽培したのが始まり。
    京みず菜:1800年ごろに切れ込みの深いものが選抜され、現在の形状になったとされる。葉柄が細く白いのが特徴。鯨肉とのハリハリ鍋を始めサラダ、浅漬けとしても人気。
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    「旨い!」を極める名料理人、徳岡・神田両氏。話は尽きることなく、鼎談後に京都の人たちの“台所”錦市場へ。買い物客に交じってのぶらり歩きに満面の笑み!

    どこで料理する時も京都の水を使います――徳岡邦夫
    京都には水と土のアドバンテージがある――神田裕行

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※『Nile’s NILE』2013年12月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています。

ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。