『鬼滅の刃』とコロナの密接な関係
今、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。その勢いはいまだ衰えることなく、私たちは日々不安にさらされながら暮らしている。そんなコロナと『鬼滅の刃』は密接な関係があると白河氏は言う。
もともとはコロナ前からNetflixでアニメ版を視聴していたという白河氏。『鬼滅』のアニメ自体、大正時代の華やかな風俗、美しい絵柄、緻密なストーリーではあるものの、なぜ放送当初は話題にならず、今ブームになっているのか、その鍵は新型コロナウイルスが握っていると語る。
「4月には緊急事態宣言が出され、リモートワークが推奨されるようになりました。それに伴い、家にいる時間が増え、普段はアニメを見ない層も『鬼滅』を見るようになったのだと思います。子供だけでなく大人も夢中にさせる良質なコンテンツが詰め込まれている『鬼滅』が発見されたのです」
「作品内では敵となる『鬼』ですが、その鬼もなぜ鬼になってしまったのか、鬼にならざるを得なかった悲しいストーリーも奥行きが深く共感を呼びます。子供のころの『ドラえもん』しか見ていなかった層にもそのワクワク感を思い出させるシーンが満載です。父がいない家庭で頑張る男の子が主人公という設定も心を打つものがあります」
「そして、主人公の竃門炭治郎は鬼に対して心が揺れる場面がたびたびあります。また鬼も、死ぬ間際に人間だった頃のことを思い出して涙を流します。鬼を倒して良かったね、では終わらないんです。『鬼滅』は心優しい少年の成長物語でもあり、家族や仲間との絆の物語。殺伐とした戦いのシーンだけでなくギャグのバランスも良いですよね」
家族のコミュニケーションツールに
『鬼滅』の一番の特徴は家族で見る人が多いこと、と白河氏。
「コロナで自粛期間中、家に家族がいることで家族全員で『鬼滅』を見ていた人が多かったようです。普段は家にいないお父さんが長い時間家にいたり。最初は学校で子供が友達から教えてもらってお母さんがハマり、それでコミックスを全巻そろえたというご家庭もありました。ご家族で見ているという投稿をSNSでもよく見かけます」
「また、このアニメは人が殺されたり鬼の首を切ったりする残虐なシーンもあります。このアニメの映画版はPG12マークがついていて、大人の助言のもと見るよう推奨されています。小さいお子さんがいる家庭などでは『これは本当はしちゃいけないんだよ』と教えながら見る必要もありますね」
「炭治郎が『俺は長男だから痛みに負けちゃいけない』などと自分に言い聞かす昔の家父長制が顕著に表れているシーンに関しても、今の子供は理解できない。『この時代はこういう価値観だったんだよ』と時代の変化を教えるお父さんもいました。『鬼滅』を通して家族のコミュニケーションが活発になった。今、コロナ禍により家族の一体感が求められているところに『鬼滅』がパズルのピースのようにピタリとはまったのです」
「過去、『進撃の巨人』が流行ったときは東日本大震災がありました。最初『進撃』を読んだとき、壁の外の恐怖に脅かされる人々と堤防を越えてくる津波の恐ろしさが重なってすごく怖いなと感じました。それと同じように、コロナと災厄に立ち向かう私たちの絆、という時代の気分にハマっています」
『鬼滅』は女性ファンも獲得している面があるが、それは今までの「ジャンプ」の定石である「友情、努力、勝利」に加え、家族の絆が描かれているからだという。友情だけでなくそこに家族も加わり『ONE PIECE』をさらに拡大したブームになっているのだ。
「今のアニメは女性ファンなしでは作れません。ジェンダー的な面から見ると、女性キャラは守られるだけでなく鬼化してしまった炭治郎の妹の禰豆子も炭治郎が窮地に陥った時に頼れる強い剣士である『柱』には女性キャラもいます」
「『進撃の巨人』にも女性兵士がいましたよね。そして当たり前のように女性兵士も死んでいく。ここに、一昔前の少年漫画との違いが表れています。
ちなみに私が一番好きなキャラは珠代さんです。あの大人っぽい影のある魅力はいいですね。大正時代の風俗やファッションも美しく、見ていて少しバブルにも似た感覚があります」