初期はアカデミックな作風で名を馳せ、やがて「黄金様式」の時代を開花させたクリムト。後期から晩年には《赤子(ゆりかご)》に代表されるような色彩豊かな作品を残した。また意外にも風景画を多く描き、その数は全クリムト作品250点余りのうち4分の1ほどを占める。
「晩年の色彩豊かな作品では、筆のタッチや色遣いが印象派のようにも見えますが、色彩の組み合わせやモザイク画のような装飾性に、クリムトならではの特徴が表れています。正方形のカンヴァスを用い、対象をクローズアップして描いた風景画も絵画というよりタペストリーのようです」
本展覧会では「黄金様式」の時代を含む幅広い時期のクリムトの油彩画が25点以上紹介されている。
「クリムトの家族や女性関係について触れる章では、どのような人物だったのか、その一面を垣間見ることができるでしょう。クリムトは生涯独身を通しましたが、モデルの女性との間に、少なくとも14人の子供がいたと言われています。ただ、エミーリエ・フレーゲという女性だけは、恋愛関係というよりプラトニックな関係のまま、信頼を寄せ続けました。本展覧会では、クリムトからエミーリエに宛てた手紙や二人の写真も展示しています。瀟洒な作品で知られ、常に女性に囲まれていたクリムトですが、実際にはスポーツ好きで、牡牛のように太い首をした無骨な人物だったようですよ」
本展覧会は、世界一のクリムト作品のコレクションを持つベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館の全面協力により実現。日本とオーストリアの友好150周年記念という節目の年に、日本では過去最大規模で開催された。昨年、没後100年を迎えたクリムトの作品は、今見ても斬新で、美しく、洒脱である。
※『Nile’s NILE』2019年6月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています