退廃とエロス・世紀末の官能画家

恍惚のただ中にいるような官能的な女性。見る者を一目でとりこにする、匂いたつような魔性の女性の表情を描かせたら、右に出る画家はいないだろう。グスタフ・クリムト。デザイン性の高い、工芸品のような総合芸術を実現した彼の油彩画を、過去最多となる25点以上集結させた、東京では約30年ぶりとなる大規模展が東京都美術館で開催された。

Photo Satoru Seki Text Rie Nakajima

恍惚のただ中にいるような官能的な女性。見る者を一目でとりこにする、匂いたつような魔性の女性の表情を描かせたら、右に出る画家はいないだろう。グスタフ・クリムト。デザイン性の高い、工芸品のような総合芸術を実現した彼の油彩画を、過去最多となる25点以上集結させた、東京では約30年ぶりとなる大規模展が東京都美術館で開催された。

クリムト 絵画
赤子、若い女性、年老いた女性。三世代の女性を色鮮やかな装飾文様が取り囲み、背景には暗色の抽象的な空間が広がる。伝統的な主題を象徴的に描いた約170cm角のカンヴァス画は、クリムト最大の絵画の一つ。
グスタフ・クリムト《女の三世代》1905年 油彩、カンヴァス 171×171cm ローマ国立近代美術館
Roma, Galleria Nazionale d’Arte Moderna e Contemporanea. Su concessione del Ministero per i Beni e le Attività Culturali

クリムトは1862年、ウィーンで金工師の父のもとに生まれた。14歳で工芸美術学校に入学し、アカデミックな教育を受ける中で才能を認められ、劇場の壁画装飾を任されるなど頭角を現すように。だが、この成功で満足することはなかった。1897年、35歳のときにウィーン造詣芸術家協会を脱会し、新時代の芸術を目指すウィーン分離派を結成、その初代会長に就任したのだ。

「クリムトは当時のウィーン造形芸術家協会の旧態依然とした体制に不満を持ったようです。伝統に反する作品の展示が認められない、功労会員たちが優遇されるなど、当時の画壇には保守的なところがありました。またクリムトたちは、同時代のヨーロッパ各国の美術をウィーンに広めたいという意欲もありました。そこで分離派という新しい活動の場に身を置き、旧来の協会が好む芸術とは異なる表現に、ときには批判を受けるような表現に意図的に挑戦したのです」

たとえば、遠近法によらない平面性の強調された絵画空間。絵画は奥行きのある空間を描くものだという常識に対抗し、あえて奥行きのない構図を好んだ。37歳のときに制作した《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》に書かれた「大衆に迎合するのは恥ずべきことで、わずかな人を喜ばすことを目指すべきだ」という意味のシラーの言葉も、画家の真意を反映したものだろう。

「既成概念にとらわれず、真なるものを目指そうという思いから、国外の文化や絵画芸術以外の分野にも平等に目を注ぎ、横断的に表現することが、彼らが新しい芸術を実現する手段となりました。作品の中に輝く貝や石などを取り入れ、絵画だけでなく工芸や建築などジャンルを超えて一つの作品を完成させる総合芸術を目指したのもその一環と言えます」

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ラグジュアリーとは何か?

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