筆跡(ブラシストローク)をカットしてコラージュさせていく、“カット&ペースト”と呼ばれる独自のスタイル。キャンバスを飛び越え、立体的に表現された筆跡が、高く評価される鮮烈な色彩感覚とあいまって、他の誰にもまねできない先鋭的な個性を生み出す。彫刻とも絵画とも異なるその作品は、実物と対峙(たいじ) して初めて、迸(ほとばし)るようなエネルギーと研ぎ澄まされた感性に全身が麻痺(まひ)するような衝撃を覚える。
山口歴氏はニューヨーク・ブルックリン在住の日本人アーティストだ。出身は東京都渋谷区。両親ともにファッションデザイナーという家庭に生まれ、ファッションやアートを常に肌で感じながら育った。
幼い頃から絵を描くのが好きで、絵画教室にも通っていたという。いわばサラブレッドの生まれだが、アーティストとしては挫折を知らないエリート、というわけではない。進学にあたり、東京藝術大学を目指すも4浪。苦悩の中、2007年に旅行で訪れたニューヨークでクリスティン・ベイカーの作品を知り、日本のアカデミックなアプローチとは180度異なる、自由なアートの世界に開眼する。そして右も左もわからぬまま渡米した。