甘美なる骨董の引力

かつて、多くの日本人が海外で美術品や骨董品を買いあさった時代があった。その多くが今、相続などの転機を迎え、骨董店に持ち込まれている。現代の骨董の世界について、東大赤門前の老舗、本郷美術骨董館の染谷尚人代表に話を聞いた。

Photo TONY TANIUCHI Text Rie Nakajima

かつて、多くの日本人が海外で美術品や骨董品を買いあさった時代があった。その多くが今、相続などの転機を迎え、骨董店に持ち込まれている。現代の骨董の世界について、東大赤門前の老舗、本郷美術骨董館の染谷尚人代表に話を聞いた。

東大赤門前に位置する、この地で30年の実績を持つ骨董店「本郷美術骨董館」。東大の学者を対象に、夏目漱石の掛け軸や太宰治の未発表原稿などを提供したのを始まりとして、現在では、絵画・彫刻・茶道具・刀剣・古美術など、あらゆるジャンルを扱う。2代目の染谷尚人代表は、専門家集団を携えて全国で鑑定会を開催するほか、国税局の差し押さえにも駆り出されるなど、日本を代表する“目利き”だ。今の骨董業界について染谷代表はこう指摘する。

「昔のようなコレクターの世界にとどまらず、投資ファンドが介入して美術品の値をつり上げたり、アドバイザーとして価値を上げる手助けをしたりして、価格操作を行っています。世界的な不動産の不安定さと金余りが、このような状況をもたらしたのです。いわば、現代の骨董は富を増やすためのもの。特に、中国は元が不安定であることと、かつて国外に流出した美術品を取り戻すために、国策として中国美術を買いあさっている。私たちも年に3度、中国美術オークションを開いていますが、中国からたくさんのゲストが来る。中には自家用ジェットで来日するお得意さまも。1日に1万5000点以上の取引がありますね」

染谷尚人
染谷尚人(そめや・なおと)
本郷美術骨董館の 2 代目代表。27人の専門家とともに全国で鑑定会を開催するほか、テレビなどメディアへの出演も多数。鑑定の世界の実情や裏話をつづったブログ「染谷尚人の鑑定ファイル」も執筆中。ameblo.jp/art-hongou
東大赤門前を背景に立つ染谷代表。「骨董や美術品の価値の変動は、プロでも予測が難しいもの。だからこそ、魅力的でもあるのです」

染谷代表いわく、今のトレンドは中国美術と現代アートだ。中国美術ではせんだって、書画家・張大千のオークションでの取扱高がピカソやゴッホを抜いて世界一となり、1点につき50億円を超える値がついたことで話題となった。現代アートでは、5年前には15億円程度だったアンディ・ウォーホルの作品が、およそ7倍の105億円で落札された。

「日本の作家でも、村上隆や草間彌生の作品が高騰しています。テレビ番組で取り上げられて、急に値段が上がる作家もいますね。一方で、ニーズの減少により、値崩れを起こすものも。かつては1億円だった千利休の茶杓が、1000万円以下で取引されています。横山大観や平山郁夫の作品等、日本の美術品は半値以下になっていますね」

しかも、技術の向上により、贋物が作りやすくなっている。素人が何も知らずに飛び込むには、あまりにも危険な世界。そんなとき、頼りになるのが信頼できる鑑定士だ。

「当館では、ジャンルごとに専門家を集め、27人の鑑定士がチームとなって鑑定しています。その全員が集まるのが、全国で行っている合同鑑定&査定会です。買い取った品は、コレクターや同業者のネットワークを生かして販売します。コレクターの好みを把握して、お目当ての品があれば代わりに競り落とすのも私たちの役目。もしお客さまが途中で降りると、私たち自身の負債となってしまうリスクの高い仕事です」

贋物を売買しても、知らなかった、で通せば罪にはならない。染谷代表も若い頃は何度もだまされ借金を背負う等、苦い経験を重ねてきた。

「全てにおいて欠かせないのが、お客さまとの信頼関係です。これを得た人だけが、この世界で富を得ることができるのです」

●本郷美術骨董館 
フリーダイヤル0120-518-100

※『Nile’s NILE』2014年3月号に掲載した記事をWEB用に編集し掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「NILE PORT」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。