「本当のイタリアの味」への道しるべ

本の食べ時 第14回 君島佐和子

本の食べ時 第14回 君島佐和子

本書はそんな彼らが「本当のイタリアの味」へと招くガイドである。イタリアに足を踏み入れて25年。この店が良いと推されれば赴き、あの店が星を獲ったと聞けば車を走らせ、仕事の傍ら、食の旅を重ねてきた。

「はじめに」で二人は次のように綴る。「第二の自宅であるトスカーナの家に戻るたびに、私たちにとっての『イタリアで食べたいもの』がぐっと明確になっていきました。それはごくごく普通のイタリアの料理」

普通の料理こそが「本当のイタリアの味」の入り口であると示唆するのが、ジェノヴァのペスト・ジェノヴェーゼによって覚醒したエピソードだ。「そこから、私は自分の中に刻まれているイタリア料理というもののすべてを疑い始め、『本当のイタリアの味』へと基準を書き換えるべく、追い求めていくようになった。(中略)この扉を開けてしまってからは、その美味しさを知ると知らぬとでは、大きく違うのだと確信した」。本書執筆の理由もそこにある。「なんでも簡単に世界中のものが手に入るこの時代、それっぽい味がいっぱいあって、味の違いにすら重きが置かれない今、だからこそ、本当の味を知ること自体、貴重なものになっていくのかも知れない。そしてそんなイタリアの味ですら、消えゆく味になってしまうのかも知れない。だから今、イタリアの味を知ってほしい」

1880年創業という老舗のミラノ風リゾット、ヴェローナの茹で肉料理、南チロルの燻製肉、ボローニャ近郊の黄金色に輝くブロードに浸るトルテッリーニなど、15軒のレストランと三人の食材生産者が紹介される。中でも際立つ1軒がピエモンテ州の南東部、リグーリア州との州境近くの小さな町の「リストランテ・カッチャトーリ・カルトージオ」だろう。この店で二人が食すのは、パプリカのオーブン焼き、カッチャトーラ(鶏肉の猟師風煮込み)、パンナコッタ。ごく普通のメニューだが、「ここの料理は、写真でイメージできる、今までのあなたが知っている味では絶対にない」と断言する。「すべてを削ぎ落し調理された料理。(中略)イタリア料理のセオリーに則り、余計なことは一切せず、かけるべき手間を十分にかけた料理ということだ。(中略)イタリア料理に限らず、私たちにとっての『美味しい』の基準はここにある」。普通を洗練の高みへ導く道筋はなんとストイックで隙がないことか。

本を開くと目に飛び込むのは、黄色、緑色、薄茶色、緋色、象牙色、皿の上に一色しかない料理。まるで「本当のイタリアの味は単色」という法則があるかのようだ。焦点を絞り込んだ一点突破の仕事の深さは視覚にも表れている。

君島佐和子 きみじま・さわこ
フードジャーナリスト。2005年に料理通信社を立ち上げ、06年、国内外の食の最前線の情報を独自の視点で提示するクリエイティブフードマガジン『料理通信』を創刊。編集長を経て17年7月からは編集主幹を務めた(20年末で休刊)。辻静雄食文化賞専門技術者賞選考委員。立命館大学食マネジメント学部で「食とジャーナリズム」の講義を担当。著書に『外食2.0』(朝日出版社)。

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
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