トレンドを牽引するマイクロ・メゾン、日本上陸

不朽の価値 第27回 まつあみ靖

不朽の価値 第27回 まつあみ靖

ファーラン・マリというウォッチブランドをご存じなら、あなたはなかなかの時計愛好家かもしれない。コロナ禍のさなか2021年に創業した若い独立系メゾンながら、当初から世界中の愛好家からの注目を集め、現在に至っている。

創業者は、スイス出身のプロダクトデザイナー、アンドレア・ファーランと、サウジアラビア出身の時計コレクターでアーティストのハマド・アル・マリ。

アンドレア・ファーランは、ローザンヌ州立美術大学卒業後、ウブロ、ショパールなどでインターンシップを経験。さらにクリエイティブなコンプリケーションのサプライヤーとして名を馳せたルノー・エ・パピ社の共同創業者の一人、ドミニク・ルノーのアトリエでもデザイナーとしての4年間キャリアを積んだ。

ハマド・アル・マリは、幼少期からオークションハウスに親しみ、時計に対する知見を養い、オーストラリアでビジネスマネージメントを学んだ人物。中東系の姓を冠した初の時計ブランドを興したことは、彼のプライドになっている。

二人は2015年にクリスティーズのオークション会場で出会い意気投合、共同でウォッチビジネスの立ち上げに着手する。2021年4月、初のプロジェクトとなるメカクォーツ・エディションを「キックスターター」というクラウドファンディングにアップすると、わずか35秒という驚異的なスピードで目標金額を達成。そしてファーストモデル「ミスター・グレイ」を発表する。

このタイムピースは名前の通り、ライトグレーのツートーンダイヤルに、2カウンターを備えたクロノグラフ。搭載するムーブメントは、セイコー製のメカ・クォーツキャリバーVK64。クォーツによる駆動機構に機械式クロノグラフ機構を組み合わせたものだ。滑らかに運針する1/5秒計測が可能なセンタークロノグラフ秒針やプッシャーの操作感、瞬時にゼロリセットする機構など、機械式クロノグラフと同様の味わいが楽しめる。

ヴィンテージテーストにあふれた外装デザインや丁寧な仕上げも、愛好家の目を引きつけた。控えめな38㎜ケース、50年代の著名メゾンの名作クロノグラフを彷彿させる文字盤デザイン、ローマ数字のⅫ、Ⅵとバータイプとを組み合わせたアプライドインデックス、ピストン形状のプッシャー、さらに薄型へのこだわりなどなど、共同創業者の二人のヴィンテージウォッチへの知識、情熱、良質な趣味性が遺憾なく詰め込まれ、目の肥えたコレクターにまでも訴えかけた。それだけでなく、アクセシブルなプライスも、幅広い層にアピールした。この時計の当時の価格は495スイスフラン。1スイスフランが120円代で推移していたころなので日本円にしてなんと6万円台とは驚嘆に値する。

このタイムピースは発表から7カ月後、ジュネ―ブ・ウォッチ・グランプリ(GPHG)2021において、若いブランドの革新的なモデルに与えられるオロロジカル・レヴェレーション部門でグランプリに輝いている。その完成度や期待値がいか高かったかがうかがい知れる。

その後も、メカクォーツモデルのバリエーションを広げる一方、ドバイのリテールとのコラボ限定モデルや、ハイエンド・ムーブメント・サプライヤーのラ・ジュー・ペレ社製自動巻きキャリバー搭載モデルなどラインアップし、ビジネスの拡充を進めていく。

2023年のチャリティーオークションONLYWATCH(実施されたのは2024年5月)では、アンドレア・ファーランの師というべきドミニク・ルノーが若き天才時計師ジュリアン・ティシエが手を組んだブランド、ルノー・ティシエと、ファーラン・マリとのコラボによる、セキュラー・パーペチュアルカレンダー・モデルを出品。

通常のパーペチュアルカレンダーは400年ごとのイレギュラーな2月末の日付を自動調整できないため、2100年の2月末までが“パーペチュアル”の期限となっているが、このモデルはその問題をもクリアした正真正銘のパーペチュアルカレンダー機構で、パテック フィリップ、フランク・ミュラーなどごく限られたメゾンでしか開発されていない。ファーラン・マリのこのモデルは、セキュラーパーペチュアルカレンダーのモジュールを従来よりも飛躍的にシンプル化することに成功し、わずか25パーツで実現させた。落札額は13万スイスフラン、当時の日本円で約2600万円だった。

ルノー・ティシエとのコラボレーションによるセキュラーカレンダー機構のユニークピース。チャリティーオークションONLYWATCH2023に出品され、13万スイスフランで落札された。自動巻き、ケース径39㎜、ロジウムコーティングのシルバーケース×同素材のミラネーゼブレスレット。

このモデルは、ファーラン・マリがアクセシブルなヴィンテージテーストモデルだけでなく、ハイエンドなコンプリケーションにもアプローチ可能であることを示した。実際2024年には、この機構をベースに、パーツ数を五つ減らし、通常のパーペチュアルカレンダー化した「パーペチュアル・ワン」を発表。GPHG2024のプチエギーユ部門(3000~10000スイスフランが対象)の最終ノミネートに残り存在感を示した。当時の販売価格は9950スイスフラン、日本円で約180万円と他ブランドに比べて極めてリーズナブルな価格設定だったことも特筆したい。

ちなみに同年のGPHGのチャレンジ部門(3000スイスフラン以下が対象)でも、プゾー製手巻きキャリバーを搭載した「ディスコ・ヴェルデ」が、最終ノミネートに残った。今や、このマイクロ・メゾンは、時計愛好家にとって目が離せない存在となったと言っても過言ではない。

GPHG2024チャレンジ部門ノミネートモデル「ディスコ・ヴェルデ」。手巻きのプゾーCal.7001搭載。グリーンとベージュを主体としたダイアルのカラーリングも絶妙。手巻き。ケース径38㎜、SSケース×グリーンカーフストラップ(ベージュカーフとメッシュブレスレットも付属)、5気圧防水。614,900円。

そんなファーラン・マリの日本法人であるファーラン・マリ ジャパンが、2025年9月に設立され、銀座の会員制バーラウンジ、ヴィラ・フォッシュ内に常設展示スペースも設けられた(来店は予約制)。9月にこのヴィラ・フォッシュで開催されたローンチ発表会には、共同創業者の二人も初来日し、プレゼンテーションを行った。また、高級腕時計専門オンラインマーケットプレイスであるクロノ24のサイトから希望者を募り、実機に触れ、その場でアプリを通じて購入できるイベントも開催され、好評を博したという。

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    共同創業者のアンドレア・ファーラン(左)とハマド・アル・マリ(右)。9月に来日した際、銀座のヴィラ・フォッシュにて。
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    ローンチ発表会には、クロノ24のサイトを通じて来場した時計愛好家が多く訪れた。
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    実機に触れられる貴重なイベントでは、その場でアプリを使い購入することもできた。
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現在、ファーラン・マリのコレクションは四つの柱で構成されている。まずファーストモデルからの流れを汲むメカ・クォーツクロノグラフ。3時位置にセンター時分針と連動した24時間表示と、9時位置に分積算計を備えた2カウンター仕様と、3時位置の24時間表示を省き、よりシンプルなデザインとしたタイプがある。

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    ファーストモデルからの流れを汲む、セイコー製Cal.VK64を搭載したメカ・クォーツ コレクションの1カウンター仕様の「ネロ・サッビア」。9時位置には分積算計を備える。センタークロノ秒針を常時作動させておけば、機械式モデルのテーストが楽しめる。パルスメーター付きラッカー仕上げダイアル。クォーツ、ケース径38㎜、SSケース×カーフストラップ(ベージュとブラックの2本が付属)、5気圧防水。146,300円。
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    ファーストモデルからの流れを汲む、セイコー製Cal.VK64を搭載したメカ・クォーツ コレクションの1カウンター仕様の「ネロ・サッビア」。9時位置には分積算計を備える。センタークロノ秒針を常時作動させておけば、機械式モデルのテーストが楽しめる。パルスメーター付きラッカー仕上げダイアル。クォーツ、ケース径38㎜、SSケース×カーフストラップ(ベージュとブラックの2本が付属)、5気圧防水。146,300円。
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機械式では、まずラ・ジュー・ペレ社製自動巻きキャリバーG100を、37.5㎜ケースの搭載したコルヌ・ド・ヴァッシュ コレクション。ネーミングは、50~60年代のヴィンテージモデルで見られる「牛の角(コルヌ・ド・ヴァッシュ)」を模したラグの形状に因む。セクターダイヤルも特徴的だ。ディスコ・ヴォランテ コレクションは、ラグを排し、リュウズもケースに収めるデザインとした38㎜の正円ケースに、プゾー製手巻きキャリバー7001を搭載する。

コルヌ・ド・ヴァッシュ コレクションの新作「ブルーセクター」。ブルーのセクターダイヤルと、牛の角を模した50年代風の「コルヌ・ド・ヴァッシュ」タイプのラグが味わい深い。ラ・ジュー・ペレ社製Cal.G100搭載。自動巻き、ケース径37.5㎜、SSケース×カーフストラップ、5気圧防水、310,200円。

いずれもヴィンテージテーストをベースに、ディテールにまでこだわった丁寧な作り込みを旨とし、アーティスティックな要素を加えることも意識されている。現在、メゾンのスタッフは共同創業者の二人を含めて7名という少数精鋭態勢。インハウスでデザインや開発、マーケティングなどを進め、コンポーネンツの供給やアッセンブリーは、主にスイス国内や香港などに外部委託している。透明性を重視し、自社サイト上でこうした内容を全て公開している。
 
コロナ禍以降、タイムピースを巡る環境は大きく変化してきた。ネオ・ヴィンテージ・ブーム、マイクロ・メゾンの台頭、SNSやオンライン販売の拡大——こうした潮流を、まさに時代の寵児の如く牽引し、さらなる可能性に邁進するファーラン・マリ。しばらくその動向を注視しておく価値がありそうだ。

●問い合わせ
ファーラン・マリ 東京ショールーム
support.japan@furlanmarri.com

まつあみ靖 まつあみ・やすし
1963年、島根県生まれ。87年、集英社入社。週刊プレイボーイ、PLAYBOY日本版編集部を経て、92年よりフリーに。時計、ファッション、音楽、インタビューなどの記事に携わる一方、音楽活動も展開中。著者に『ウォッチコンシェルジュ・メゾンガイド』(小学館)、『スーツが100ドルで売れる理由』(中経出版)ほか。

ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。