自分のジョージアワイン体験を振り返ってみると、初の出合いは2014年。中目黒のワインショップで、当時はまだグルジアワインと呼ばれていた。「おばあさんが孫の誕生時に植えたブドウで造ったが、成人した孫が受け取らなかったため、売りに出されてここにある」というホームメイドワインだった。かの地ではワインの自家製がいまだ行われているという事実、それが世界に流通する(商品化の価値があると認識される)事実にも驚いたが、ナチュラルワイン信奉者が重要視するポイントを感じ取る貴重な体験だった。
翌年、独自性の強い生産者の製品ばかりを扱うインポーター、ノンナアンドシディの岡崎玲子さんから「ジョージアワインの試飲会に来ませんか」とのメッセージが届く。そこで本格的にジョージアワインと向き合い、最新事情を知ることになる。自家製ワイン文化を片隅に残しつつも、ソ連からの独立当時(1991年)は伝統とかけ離れた大量生産のワインが中心だったこと、独立後は西側の大手資本が参入して木樽たるやステンレスタンクによるワイン造りが推進されたこと、ジョージア固有のワイン文化が失われることに危機感を抱いた人々が、1990年代後半から2000年代前半、伝統製法を復活させたこと。同時に、欧州で潮流となり始めていたナチュラルワインの生産者たちとの交流を活発化して、彼らにワイン造りを原点から見直すきっかけを与えたことなど。本書タイトルに「ルネサンス」とある通りの展開を経て、ジョージアワインは今、輝きを放つ。
著者の前田弘毅氏は西アジア(イラン・グルジア)史、コーカサス地域研究を専門とする研究者で東京都立大学教授。ジョージアワインの会が開かれる際には必ずと言ってよいほど通訳と解説を担い、日本のワイン界が受けてきた恩恵は計り知れない。共著のジョン・ワーデマン氏はジョージアワイン復興のまさに当事者にしてスポークスマン。ジョージアワインを知るのに本書以上の入り口はないと思う。
君島佐和子 きみじま・さわこ
フードジャーナリスト。2005年に料理通信社を立ち上げ、06年、国内外の食の最前線の情報を独自の視点で提示するクリエイティブフードマガジン『料理通信』を創刊。編集長を経て17年7月からは編集主幹を務めた(20年末で休刊)。辻静雄食文化賞専門技術者賞選考委員。立命館大学食マネジメント学部で「食とジャーナリズム」の講義を担当。著書に『外食2.0』(朝日出版社)。