仕事にオフィスは本当に必要か?

時代を読む 第137回 原田武夫

時代を読む 第137回 原田武夫

しかし、こうした状況が生じているからこそ、「あまのじゃく」である筆者なぞはこう思ってしまうのである。「仕事をするために、オフィスは本当に必要なのか?」と。

コロナ禍で始まった「リモートワークの時代」の中において経営者であった読者の皆様は恐らく同じような思いを抱かれているのではないかと拝察する。簡単に言うと、リモートワーク、すなわちオフィスに労働者とその上司(監督者)が一緒にいなくても、結局のところ、「やるやつ」は仕事をきっちりやるし、「やらないやつ」は何の仕事もせずに、遊びほうけていたのである。それではそうした状況を、「リモートワーク全廃」によって変えることができるのかというと、決してそうではないのではないかと思うのである。「この仕事は自分にとって天命(calling〈英〉、Beruf〈独〉)なのだ」と思っている労働者であれば、それをこなすことが実に喜びなので、自らの歩みを止めることなぞあり得ないのである。これに対して「仕事は仕事。プライベートはプライベート」「ワーク・ライフ・バランス」などという標語を掲げる連中は、どこにいっても、いかなる状況に置かれてもその態度は同じなのであって、上司(監督者)が与えたことをダラダラとやるか、あるいはそれすらこなさず極力サボろうとするに違いないのである。そこにオフィスなのか、あるいは自宅やカフェなのか、という仕事場の違いは全くないというのが筆者の個人的な印象なのであるけれども、この点、読者はどう考えられるであろうか。

確かにコロナ禍は私たち人類の社会全体から多くのものを奪い去ったし、いまだにパンデミックの恐怖は人類社会全体に傷跡を残している。だが、失ったことばかりなのかというとそうではないのであって、むしろ災禍の中だからこそ、物事の本質が見えたという側面がなきにしもあらずなのである。「仕事とオフィスの関係性」はそうしてあぶり出された本質的なイシューの一つなのだと筆者は思う。いたずらに不動産バブルを誘導するやからの口車に乗ってしまうその前に、この点、一度じっくりと考えてみてはどうであろうか。そうすることで、意外なる発見が、読者自身の仕事の本質について見えてくるのかもしれない。

原田武夫 はらだ・たけお
元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』2025年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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ラグジュアリーとは何か?

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それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。