インフルエンサー

食語の心 第137回 柏井 壽

食語の心 第137回 柏井 壽

今では当たり前のように使われているが、インフルエンサーという言葉は20年前までほとんど使われていなかった。

元は主にSNSなどで発信し、世間に影響を与える人たちのことで、ビジネスとして情報発信する人を指したが、昨今では情報を発信するアマチュアも含めてインフルエンサーと呼んでいるようだ。

つまりはプロもアマも含めてのインフルエンサーだから、非常に紛らわしい。いわゆるステルスマーケティングを見つけにくくなったのである。

今やインスタグラムの投稿には、おびただしい数のグルメ情報が氾濫(はんらん)し、おいしい店の話がSNS上に飛び交っている。

その多くはアマチュアのブロガーなどの、ほほえましい外食体験の記録で、まさに玉石混交。なかには気になる店もあるが、わざわざ全国チェーンなど載せなくても、と苦笑することもある。

まぎらわしいのは、食をビジネスとしている人たちのSNSである。主にメディアで活躍する、グルメと呼ばれる人たちが、SNSで投稿する外食体験は、はたして純粋なものか、はたまた俗に言う店宣伝なのか、ほとんど見分けがつかないのである。

外食を趣味として、多くの店を食べ歩き、それをSNSで紹介するだけにとどまらず、プレオープンだとか内覧会に出向き、その様子を投稿するようになると、それはもう店宣伝でしかないのだ。

たとえ無報酬であったとしても、タダ飯を食らい、ときには土産までもらった時点で、その投稿が公平性を欠くのは間違いない。もしも好みに合わない店だったとしても、タダで食べさせてもらって、批判するわけにはいかない。ほめるしかないだろう。

しかし純粋無垢(むく)な読者は、みじんも疑うことなく、「うわー、素敵な店ですね。わたしも行ってみたいです!」

とコメントを寄せる。

こういう話が今やSNS上であふれかえっている。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。