消えた食

食語の心 第136回 柏井 壽

食語の心 第136回 柏井 壽

食語の心 第136回 柏井壽、消えた食

ゴールデンウィークが過ぎた今も、米の価格高騰が一向に止まる気配を見せない。

当初は備蓄米を放出すれば、そう遠くない時期に沈静化するだろうと、楽観視する向きが少なくなく、お上もそう予測していた。

落札されたらすぐにでも、スーパーマーケットや米穀店の店頭に、現在よりは安い価格で備蓄米が並ぶものと思っていたが、その予想は大きくはずれ、米価は相変わらず高騰したままだ。

相応量が放出されたはずなのに、落札された備蓄米はいったいどこに消えたのか。

スーパーの店員も米穀店の主人も、まったく入荷する気配がないと口をそろえるが、ウェブ上では意外なところで、米袋が陳列されている画像が投稿され物議を醸した。

それは、アメリカはメリーランド州のスーパーの売り場で、産地も明記されたコシヒカリの5キロ袋が2100円で売られていたのだ。れっきとした日本産の銘柄米が、日本の半値以下で売られ、しかも潤沢に店頭に並んでいる。消えた米は海外に流出していたのだ。これはなにもアメリカに限ったことではなく、ゴールデンウィークに韓国へ行った旅行客が、スーパーで日本の米を土産に買ったと、テレビニュースで報道していた。

どういうカラクリでこういう事態が起こるのか、明確な説明もないまま今に至っている。

このように原因不明で消えた食があれば、おなじように消えた食でも、明確に原因が特定できるものもある。

そのひとつは抹茶である。

京都宇治の老舗茶舗として名高い店の抹茶が、長いあいだ品切れ状態で、茶人たちが悲鳴をあげ続けているのだ。

かく言うぼくもこの店の抹茶を愛飲しているのだが、正規ルートでは買えなくなって、ほとほと困り果てている。

稽古用や製菓用の廉価品は在庫があるようだが、いわゆる高級抹茶はとんでもないプレミアム価格が付いて、ネットオークションに出品されていたりする。

宇治抹茶の高級品が消えたのには、明確な理由があり、それは隣国の富裕層が買い占めているからだと、茶舗の主人は言う。

隣国でも抹茶ブームが起こり、とりわけ富裕層のあいだでは、宇治抹茶の人気が過熱しているというのだ。

抹茶そのものは爆売れしているが、茶道具はその売れ行きに変化がないというから隣国では抹茶をどんな形で消費しているのだろうか。

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ラグジュアリーとは何か?

ラグジュアリーとは何か?

それを問い直すことが、今、時代と向き合うことと同義語になってきました。今、地球規模での価値観の変容が進んでいます。
サステナブル、SDGs、ESG……これらのタームが、生活の中に自然と溶け込みつつあります。持続可能な社会への意識を高めることが、個人にも、社会全体にも求められ、既に多くのブランドや企業が、こうしたスタンスを取り始めています。「Nileport」では、先進的な意識を持ったブランドや読者と価値観をシェアしながら、今という時代におけるラグジュアリーを捉え直し、再提示したいと考えています。