
このコラムの原稿を書いているタイミング(4月上旬)に、我が国の株式マーケットは平均株価ベースで実に1日で2000円以上も下げる展開を見せている。米国のトランプ大統領が「壊れたラジオ」のように繰り返し述べてきた強烈な関税政策が、強いインパクトを我が国のみならず世界全体に与えることは想定されていたとはいえ、とりわけ我が国政府の側では「そうはいっても『日米同盟』だし、何らかの手加減はなされるはずだ」といった甘い見通しがあったことは確かであろう。しかし現実にここまで我が国の株価が切り崩されてしまったとあっては、さすがの石破茂総理大臣も「国難だ」と言わざるを得なくなっているというわけなのである。「こうなること」を私は自らの意思で20年前に外務省を出奔して以来、一貫して述べてきたつもりである。すなわち米国が本当のところ考えているのは我が国からの「国富」の収奪なのだ。しかも1945年8月の「敗戦」から立ち直るにあたり、英明なリーダーシップに率いられる形で、我が国は「世界最強の番犬」米国を自らの同盟相手とすることに成功したのである。その結果、我が国はその後、未曽有の高度経済成長の果実を手にすることになったわけだが、それが「平成バブル」という形でクライマックスを迎えて以降、むしろ「転落の歴史」の連続になってしまったことは読者の皆さんもよくご存じのとおりなのである。
そして今、ついに我が国の「国富」を根こそぎ取りにやってきたというわけなのである、米国勢は。我が国の「国富」は一方では我が国の大手上場企業の内部留保として蓄えられてきた経緯がある。他方でそれは同時に世界に類を見ないほど分厚い「中間層」の家計の中にも埋蔵されてきた。これを一方では東証改革を「世界的な潮流だから」と強いる形で実行させ、他方では「これからは貯蓄ではなく投資だ」「自分年金を早くつくろう」と誘導し、我が国大手企業と「中間層」のいずれをもグローバル金融マーケットという仁義なき鉄火場へと追い込んだのである。しかも最初は強烈な円安誘導を日本勢に許し、かつ「半導体景気」を演出することで、我が国の企業社会と「中間層」のいずれもが表面的にはあらかじめ行うように仕向けた米国株投資でもうかるかのように演出することも米国勢は怠らなかった。ところが「その日」すなわち「審判の日」は到来したというわけなのである。米国勢のトップリーダーであるトランプ大統領は情け容赦なく「同盟国」ニッポンに対して関税をかけることを宣言し、株高という砂上の楼閣は一瞬にして崩れ去ったというわけなのである。