
かつて私淑申し上げている古神道の師匠にこんなことを言われたことがある。「普段、私たちは皆、人間たるもの、全員が全員全く同じだと信じ込んでいる。しかしそれは事実に反する。しっかりと自意識を持って生きている存在、これがヒトだ。ところがそうしたヒトの言うことに翻弄(ほんろう)され、ヒトとヒトの間を漂うだけの者がいる。これはヒトとヒトの間だから人間だ。つまり、ヒトと人間がいるわけだ。よく覚えておくがいい」
師匠はさらにこんなことも教えてくれた。
「人間はヒトとは違って自分の意識というものを持たないから、いわば酔っているようなものだ。しかし『あなたは酔っているのか?』と聞くと、必ず『酔ってなんていない!』とむきになって怒りながら答えてくる。それが正に酔っている証拠なのだよ」
最近、身の回り、そして世間を見ていてつくづくこのことを思い出している。2008年のリーマンショック以降、当然のように世界中で行われた「量的緩和」の結果、世間ではカネが非常に安くなっている。そうした中でまずはインフレが生じるわけだが、やがて今度はスタグフレーションからデフレへと転じていく。我が国が世界各国の中でも先駆けてこの状態、すなわち「グレートモデレーション」の時代へと突入したわけであるが、これに拍車をかけているのが他ならぬ人工知能(AI)の発展なのである。
現在の人工知能(AI)とは要するに過去データからパターンマッチングを学ぶマシーンである。この作業は人間でも原理的には出来るわけであるが、マッチさせるデータが数百万、数千億となっても人工知能(AI)は粛々とこれを正確にこなしてくれる。その結果、人間にはますますやることがなくなってきている。他方でこうした人工知能(AI)の特質を生かして、これを使いこなし、巧みに社会実装する中でビジネスをより効率化していっている向きもいる。これらの、人工知能(AI)を使いこなす人々は当然のことながらそれが何であるのかを深く学びもしているので、自らコーディングをし、アルゴリズムを構築する中でどんどんこの方向へと突き進んでいく。