つまりはコンサートや舞台と似た意味合いを持っているのだが、それらとおなじような、席のオークションが行われたとして、多くが納得できるのだろうか。
たとえばコンサートのS席が1万円だとして、そのうちの何席かをオークションに掛け、5万円で落札するというようなことが世間に通用するだろうか。
とどまるところを知らないグルメブームの行き着く果ては、かくも無様な姿をさらけ出すのか。
それもこれも、やたらと煽(あお)り立てるインフルエンサーや、自称食通たちと、それに便乗するメディアのせいだ。
金さえ出せばなんとかなる、という風潮が広がらないことを祈るばかりだが、残念ながらじわじわとその波は広がっている。
行列が絶えないことで知られる人気ラーメン店が、並ばなくても食べられる席料を売り出したら、購入希望者が殺到したというニュースが流れた。
そのうちスーパーマーケットでも、レジに並ばなくてもいいチケットが売り出されるかもしれない。今はジョークで済ませても、本当にそんな事態になっても不思議ではない、という風潮だ。
人気に便乗してひと儲けしようと企(たくら)む輩はどこにでもいるようで、京都の人気寺院でも似たような話が出てきている。
紅葉の名所としても知られる寺院が、閉門後に特別拝観と称して、高額な拝観料を支払う参拝客だけを受け入れ、物議をかもした。茶菓の接待付きで通常の10倍を超える拝観料が妥当なのか。賛否両論渦巻くなか、追随する寺院や施設が出てきたのは、お墨付きを得たということなのだろう。
金さえ払えば、という風潮に宗教界までもが染まってしまったのは、なんとも嘆かわしいばかりだが、その先鞭(せんべん)をつけた飲食店業界では、すでにバブル崩壊が始まっているらしい。
予約困難店や行列店が、必ずしもおいしいとは限らないということに、ようやく気が付きはじめたからだという。今後の動向を注視したい。
柏井壽 かしわい・ひさし
1952年京都市生まれ。京都市北区で歯科医院を開業する傍ら、京都関連の本や旅行エッセイなどを数多く執筆。2008年に柏木圭一郎の名で作家デビュー。京都を舞台にしたミステリー『名探偵・星井裕の事件簿』シリーズ(双葉文庫)はテレビドラマにもなり好評刊行中。『京都紫野 菓匠の殺人』(小学館文庫)、『おひとり京都の愉しみ』(光文社新書)など著書多数。
※『Nile’s NILE』2025年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています