令和6年の5月も終わろうというころ、食関係のニュースで一番の話題になったのは漬物だった。食品衛生法が改正され、自家製の漬物販売に一定のルールが定められ、基準を満たさない製造所では販売できなくなった。これにより。基準を満たすことができない業者は廃業せざるを得ない。
グルメ評論家たちはこの改正に異を唱え、零細業者をないがしろにする悪法だと非難した。その声に賛同する人も少なくなかった。地方のおばあちゃんたちの手作り漬物は日本の伝統食であり、この法律によってその文化が失われるという意見もある。しかし、この法律は令和3年に制定され、3年間の猶予期間があったことに触れないのはいかがなものか。法律が制定された当初に声を上げず、期限切れ直前になってから異を唱えても、事態は好転しない。
一事が万事である。
町の小さな飲食店が廃業予告をすると、にわかファンが急増し、閉店直前になると長蛇の列ができることがある。しかし、それらの列を作っている人たちは、ほとんど常連客ではなく、初めて来たという客もいる。消えると分かってから惜しんでも、どうにもならない。
評論家やブロガーなど、グルメと呼ばれる人々は、今の流行にしか興味がなく、先を見通すことはあまり得意ではないようだ。人気レストランの1年先の予約には熱心でも、1年先の食事情を考えることはなく、真のSDGsにはつながらない。
食における真のSDGsとは何か。京都の老舗生麩専門店「麩嘉(ふうか)」の主人、小堀周一郎さんは本業の傍ら、食の将来を見据え、さまざまな種をまき、長い時間を掛けて育てている。彼は洛北花脊の地で柚子と山椒の農園造りに取り組んでいる。これこそが、将来を見据えた真のSDGsと言える。
真のSDGs
食語の心 第127回 柏井 壽
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