「観光立国ニッポン」に残された最後の楽園

時代を読む 第127回 原田武夫

時代を読む 第127回 原田武夫

そうこうしている間に、また例によって「観光立国ニッポン」の呼び声が再び高まってきている。一時はコロナ禍で「インバウンド需要」という言葉すら語られなくなったが、今度は「強烈な円安による外国人観光客の我が国への殺到」が相次ぎ、「観光公害」とまで言われる事態が発生してしまっている。そう、もう限界なのである、「観光立国」は。

「どうしたらいいのか」―そう思案する中で、若い友人から「先生、ここに行けば何かひらめくものがありますよ」と言われたので、土佐の西南端にある風光明媚な島へ機会をとらえ、行ってきた。高知から列車、車を乗り継いで実に4時間弱。決して近いとは言えないその場所で待っていてくれたのは絵に描いたようなエメラルドグリーンの海とそこで悠々と泳ぐイルカのつがいだった。付近を歩いているのは日本人だけであったが、その姿もまばらで、しかも全員がどこかしら心穏やかなように見受けられた。その様子に現地を下僚と共に訪れた筆者の口元からはつい、こんな言葉が漏れ出てきた。

「これは……地上の楽園。最後に残された」

同地を訪れることができて、本当に良かったと強く感じた。外国人観光客たちは徐々に「日本通」となり、ありきたりなニッポン観光では満足できなくなっている。何もしなければこの「最後の地上の楽園」も大挙して押し寄せる彼・彼女らによって踏み固められるのは時間の問題だろう。だからこそ、考えなければならないのだ。「産業立国」ニッポンを取り戻すためのコア中のコアとでも言うべき柱として何を打ち立てるべきなのか。そしてまたそれをベースにしながらいかにして我が国を立て直すのかを。この楽園を守ることができるのは私たちニッポン人しかいない。急がなければ、ならない。

原田武夫 はらだ・たけお

元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』2024年7月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

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