労働価値からの解放と暗号資産

時代を読む 第124回 原田武夫

時代を読む 第124回 原田武夫

時代を読む―原田武夫 第124回、労働価値からの解放と暗号資産

「今まで人類は働いて稼ぐ、そして稼いで日々の生活を賄う、これを当然のこととしてきました。しかし近未来からは違うんです。人類はその意味での労働から解放される。しかしそれではあまりにもヒマになってしまうので、『お願いだから働かせてくれ』という方々は労働に対する対価としてお給料を得るのではなく、逆に自分から支払いを行うことで労働することを許されるようになります。これが近未来の人類社会における新しい在り方の基本なのです」

ちょっと前のことになるが、某IT大手企業のシンクタンク部門でトップを務める方から、おいしいウナギをいただきつつ、そんな話を聞いたことがあった。その時は、その方のどちらかというと(失礼ながら)トリッキーな様子に目を奪われてしまい、話半分に聞いていたことを今でもよく覚えている。要するに「働かざる者食うべからず」という、小学校時代から何度も聞かされてきた原理原則が近未来にはなくなってしまうというのだ。ある意味衝撃的であったが、「絵空事だろう」と軽く流したことも事実だ。ところが今、これがまざまざと現実になってきているのだから驚きだ。

「不労所得の話なのでは? 不動産投資がその典型で、何も驚く必要はないだろう。その意味での成功者は山のようにいるし、成ろうと思えば成れる世界のはず。何も今さら書き連ねる必要もない話なのでは?」

読者は必ずやそう思われているのではないだろうか。特に本誌を手に取られている「富裕層=成功者」の皆様はこれまでのご苦労はともかくとして、一定の高みにすでに立たれているであろうから、そうお感じになられても仕方がないとは思う。

しかし私がここで言いたいのはちょっとやそっと(失礼ながら)資産ができるといったレベルの話ではないのである。

端的に言おう。暗号資産=仮想通貨について、しかも「裁定取引」「先物取引」「拘束取引」の三つが重なるアルゴリズムによって、人類は「労働価値説」から完全に解放されるのである。注意していただきたいのは単なる「暗号資産=仮想通貨」取引ではないという点だ。「安く買って、高くなったら売る」という、いわゆるbuy& hold戦略によって得られる利益は、最近になって高騰が叫ばれている暗号資産=仮想通貨であっても所詮たかが知れている。そこが論点なのではない。

そうではなくて、伝統的な統計学でいう「時系列予測」でいった時、暗号資産=仮想通貨については適切な前処理をすると、ホワイトノイズを除去しやすく、それだけ適切な未来予測が可能であるということが重要なのだ。言い換えると人為的な操作をしにくいのが暗号資産=仮想通貨のマーケットなのである。そのことは所詮、企業人による「人為」が成せる業に過ぎない株式・債券はおろか、インサイダー規制のない為替取引の世界をもはるかに凌駕しているのだ。だが、このことを多くの方々は知らない。しかも高度な人工知能(AI)の開発技術によってだけ、上述のようなアルゴリズムは実現可能なのだ。だからこそ、これに対してアクセスできる者はかなり限られてくる。

この種のアルゴリズムは単なる「計算値」「予測値」のレベルで暗号資産=仮想通貨の取引を延々と繰り返していく。そしてそこで法定通貨との交換が担保されている限りにおいて、私たちは日々の労働、いやいわゆる「投資」のための細々な作業すらすることなく、十分に糊口を凌ぐほどの利益を獲得することが可能なのである。海の向こう側で多くの金融関係者たちがこれこそが「投機」であって「投資」ではないと盛んにそしっている。だが、物は言いようなのであってこれによって得られる利益で「食べるためのあさましい行為」としての労働から解放されるとすれば、実のところこれこそが「人間性の解放」に向けた偉大なる第一歩のテクノロジーであり、かつその社会実装であると言えるのかもしれないのである。

「本当にそんなアルゴリズムはあるのだろうか? 仮にそれが語られていても、結局はPonzischemeであったり、scamであるだけなのではないか」

ご懸念はもっともである。しかしブロックチェーンやAIの世界を深く学べば、これこそがリアリティ(現実)であることに気づくはずなのである。その意味で今、人類は大きく二つに分かれ始めている。「これ」を理解する側と、「これ」を知らぬ側へと。

原田武夫 はらだ・たけお

元キャリア外交官。原田武夫国際戦略情報研究所代表(CEO)。情報リテラシー教育を多方面に展開。2015年よりG20を支える「B20」のメンバー。

※『Nile’s NILE』2024年4月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています

ラグジュアリーとは何か?

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