年号が令和にかわって早6年。そのうち半分ほどがコロナ禍だったので、令和という時代はまだ茫洋としていて、その色がはっきり見えてこないが、少しずつ明らかになってきた。
カオスに満ちた平成を経て、すでに昭和は遠くなり、懐かしさを覚える向きも少なくない。
食の面でもそれはおなじで、近年になって人気が出てきた料理や食のトレンドは、多くが昭和懐古とも言えるようなものだ。
たとえば最近よく耳にする「町中華」などがその典型で、日本中どこの町にもある、ふつうの中華料理屋が注目を集めるようになり、多くの客で人気を呼んでいるようだ。北京ダックだとかフカヒレだとかアワビだとか、高級料理とは無縁の手軽な料理を出す店が、突如として脚光を浴びるのは、最近の傾向だ。
そもそも「町中華」とはどんな店を指すのか、明確な定義はなく、なんとなくむかしからあって、焼き飯や餃ギョーザ子、唐揚げなどの、ありきたりの料理を、安価で提供する店を指すようで、そこに漂うのは昭和の薫りだ。
このあたりのことは、前々回のオーバーグルメイズムの項でも書いたが、メディアが作りだしたブームに乗る客が、店のあり様をガラリと変えてしまう。
店も主人も何も変わっていない。何十年とおなじことをやってきて、突然脚光を浴びるのだから、店側が戸惑うのも当然のこと。ほぼ常連客だけを相手にしてきたのが、いきなり一見客が大勢押し寄せても、そう簡単に対応できるものではない。アルバイトを雇った途端にブームが去り、潮が引くように客が減っていく。
令和の食はどこへ向かうのか
食語の心 第122回 柏井 壽
食語の心 第122回 柏井 壽
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