このところ、やけに頻繁に目や耳に飛び込んでくるのは、一にインドネシアで新たな商機を見いだそうと、さまざまな取り組みを積極化する日本企業の関連ニュースである。
例えば、8月初旬の新聞紙上には『三菱ふそうトラック・バスのEV(電気自動車)トラック インドネシアで発売へ』という記事があったり、『ダイキン、純利益最高』という記事の中に「アジアではインドで業務用が堅調なほか、インドネシアやタイも好調だった」というくだりを見つけたりもした。
さらに、ホンダの業績好調を伝える記事の中には「二輪車の卸売販売台数は5%増の447万3千台だった。インドやベトナムでは前年同期を下回ったが、インドネシアが63%増と伸び、全体をけん引」と伝えるくだり。また、三菱自動車のHV(ハイブリッド車)生産に関わる記事の中には「タイのほか、電動車産業の育成を目指すインドネシアでもHV生産を検討」との記述があったりした。
去る8月11月の各紙の紙面上に躍ったのは『日本車牙城のインドネシアで中韓EV攻勢 自動車ショー』という見出し。前日10日からインドネシア国際自動車ショーが開催され、中国や韓国のメーカーが相次いでEVの新モデルや現地生産を発表して、日本車のシェアが9割を占める牙城を切り崩す戦略であると伝えた。もちろん日本勢も手をこまねいているわけではなく、関連記事の中ではトヨタや三菱自動車、ホンダなどの取り組みについても言及していた。
周知のとおり、インドネシアはシンガポールの南に位置し、人口は世界第4位の約2.7億人、平均年齢は30歳前後と若く、国土面積は日本の約5倍。石油や天然ガス、鉱物など豊かな資源に恵まれていて、世界有数の親日国家でもある。
インドネシア中央統計局が発表した4~6月期の国内総生産(GDP)は、物価の変動を除いた実質で前年同期に比べて5.2%増と大きく伸びた。GDPの5割強を構成する家計消費の伸びが支え、3割を占める投資も4.6%増えている
インドネシアのジョコ政権は、EVの主要材料になるニッケルなど戦略資源の輸出を禁止して外国企業の投資を呼びこみ、付加価値の高い加工品の輸出を増やす戦略を描いており、中長期的な成長余力も大きいと言える。8月16日には、大統領が年次教書演説において「10年で所得倍増」の目標を掲げた。
そんな成長する市場に新たな商機を見いだそうとする日本企業の動きが目立ってきているのは当然のこと。なかでも、全体の売り上げに占めるインドネシア事業の割合が大きい上場企業は、今後の収益の拡大と株価の上昇に中長期的に大きな期待が持てると思われる。
例えば、それは前出のホンダや三菱自動車などの自動車メーカーや、三菱ふそうトラック・バスと2024年中に経営統合することで合意している日野自動車であったりもする。ほかに、男性向けヘアスタイリング剤の売り上げが好調なマンダム。インドネシアでは、バイク文化が浸透しているため、ヘルメットをかぶっても髪がくずれないように、パリッと固まりすぎない処方を採用したヘアスタイリング剤が伸びているという。また、ポテトチップスや4層構造のスナック菓子がインドネシアで人気のカルビーなど、いろいろ探してみると興味深い取り組み事例を数多く見つけ出すことができる。
RECOMMENDATION FOR THIS MONTH
過去の成功と失敗の歴史に
大いに学ぶ
経済以外の分野に専門を持つ識者が経済を語ると、むしろ大いに説得力を発揮するケースはよくある。その典型例の一つと言えるのが本書で、著者の専門は主に憲政史。過去の大作家の発言に「殺意が湧いた」、過去の日銀総裁の言動に「この人、病気なのかと疑った」などと実に手厳しいが、それだけに著者の思いが強く伝わってきて実に分かりやすい。過去の政策の成功と失敗の歴史に学び、明日を展望するために大いに役立つ一冊と言える。
田嶋智太郎 たじま・ともたろう
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。
※『Nile’s NILE』2023年10月号に掲載した記事をWEB用に編集し、掲載しています