前回(2023年4月初旬)執筆分の本欄で、日本株高の外堀が埋まり始めている点を指摘した。
あれから本稿執筆時(6月初旬)までの約2カ月間で日経平均株価は3,300円ほどの値上がりを見ている。言うまでもなく、その値上がりぶりは驚異的であり、日経平均株価はおよそ33年ぶりの高水準にまで持ち直してきている。
その要因は複数挙げることができるが、第一に日本の金融政策がいまだ超緩和的である点が大きい。その実、日経平均株価の本格的な上昇が、4月10日に行われた植田和男日銀新総裁の就任記者会見後から始まったことは、まだ記憶に新しい。
就任会見で植田総裁は、現在の大規模緩和を継続することが適切であると語り、当面は枠組みを変更しない考えを示した。結果、当然のごとく円の上値は抑えられ、ドルをはじめとする主要国通貨に対して円安が進んだ。
ことに、5月のドル/円は初旬の最安値=133.50円から月末の最高値=140.90円まで1カ月足らずで7円以上も円安ドル高が進んだ。そして、この間はドル/と日経平均株価の連動性がかつてないほど高まった。
3月末を本決算とする多くの上場企業は、今期(24年3月期)の想定為替レートを1ドル=125~130円とし、そのうえで今期の通期業績予想を公表している。
つまり、現状は想定した以上の円安方向に振れているため、輸出を積極的に行う企業を中心に今期の収益が会社予想を超えて拡大する可能性が高まっている。
少なくとも、市場は第1四半期(4-6月期)の決算発表時に通期の業績予想を上方修正してくる企業が少なくないと見ており、それに応じて各社の株価の妥当水準を引き上げにかかっている。
ちなみに、執筆時において日経平均株価を構成する企業225社の1株当たり利益の予想平均は2,189円で、4月初旬からは100円程度引き上げられている。
これが、第1四半期決算発表後に一段と上方修正される可能性は十分にあり、それが仮に現状より3%プラスの2,250円程度にまで引き上げられた場合、日経平均株価の妥当水準はどの程度になるだろうか。株価収益率(PER)=15倍程度で単純に計算すれば、妥当水準は3万3,750円ということになり、これはそう突拍子もない値ではないと思われる。
もちろん、株価を取り巻く状況は常に変化する。軽視できない要素の一つは、やはりドル/円の行方である。まず、目先は6月、7月に米連邦準備制度理事会(FRB)が追加利上げ実施の決定を下すかどうかがポイント。本稿が読者の目に留まる頃には、すでに6月の結果が明らかになっているわけであるが、仮に米政策金利がいったん「据え置き」となっても、それで「米利上げサイクルは終了」との判断が下せるわけでもない。6月、7月に連続で「据え置き」としても、米国のインフレ状況によっては「その次」があり得るのだ。
一方で、さすがに日銀も年内のどこかで政策の見直し、一部修正の判断を下すときが訪れよう。いずれ米・日の金利差縮小傾向が鮮明になるようなら、いったんは日本株の調整局面も訪れよう。
このように、年内は大きな局面変化が見込まれており、それに応じたキメの細かい投資戦略の修正、見直しが必要となるケースも少なくなかろう。これまで以上に広く情報のアンテナを張り、より柔軟な判断と行動が求められるようになると心得ておきたい。
RECOMMENDATION FOR THIS MONTH
日本の半導体政策は
またも失敗するのか?
著者いわく「人類の文明に必要不可欠である半導体の世界製造は、いま危機的事態に直面している」。米国による対中規制の実情や台湾有事への懸念はすでに広く知られた事実であるが、ほかにも問題・課題は山積している。果たして、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本工場や先端半導体の量産を目指す「ラピダス」の取り組みは、日本の半導体政策に十分なプラス効果をもたらすのか。いささか悲観的な著者の懸念が杞憂に終わることを祈りたい。
田嶋智太郎 たじま・ともたろう
金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産形成まで、幅広い範囲を分析、研究。講演会、セミナー、テレビ出演でも活躍。